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あゝ同期の桜

あゝ同期の桜

Uncle Cinnamon

三越劇場(東京都)

2024/03/09 (土) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

特攻隊をテーマにした作品が上演されているという情報を得て当日券を入手して観劇。若手俳優が真剣に稽古しただろう事が伝わってきて感激した。しかし正直に言うとチケット代9000円は高すぎると感じた。
普通の舞台であれば感想を書いたりしないのだが、自分は特攻隊については特別な思い入れがあり、設定の誤り等も気になったので記す事にする。
ソワレ観劇。客の入りは5〜6割といったところか。劇場入口や客席には演出家兼役者のファンと思われる揃いの真っ赤なジャケット姿の女性が目立っていた。今をときめく人気若手俳優が出演する舞台をいくつも観てきたが、このような光景は初めてであった。観劇の服装にもマナーがあると思うのは自分だけか。
詳しい感想はネタバレBOXに

ネタバレBOX

太平洋戦争末期の学徒兵による特攻という史実をテーマとしたものなので、ストーリーは割愛。
しかし、舞台装置も背景も一切無いステージであるため、時系列と場所が分かりにくい。
自分は舞台装置とそれを用いた演出方法を見るのも観劇の楽しみと考えるため、この点は残念であった。
以下、箇条書きで記す。

1.若手俳優(特攻隊員)について
実際の海軍予備学生の遺稿がセリフの大半になっており、現代の言葉遣いと異なる膨大な量のセリフにたいへん苦労したであろう。しかし7名全員がほとんど詰まる事が無かったのには感心した。特に諸木隊員役はとても良かった。
しかし、膨大なセリフを棒立ちで言わせる演出のため、細やかな演技を味わう事ができない。
また舞台俳優としてのキャリアが浅いためか、他の舞台経験豊富なキャストに比べて、発声が弱いのが気になった。
しかし7名の若手俳優達は生命力に溢れていて清々しかった。
今も昔も若者は希望である。
彼らを未来を奪われた特攻隊員に重ね、胸が熱くなるものがあった。

2.他の俳優について
整備兵曹役が良かった。
予備学生に慕われる兄貴分であり、特攻作戦の惨さを糾弾し感情を爆発させる役であるため、観客は彼に自分の気持ちを重ねる事ができる。
女性キャストもあの当時らしい凛とした雰囲気があり良かった。

3.劇伴について
これは全く受け入れられなかった。
特にクライマックスに流れた邦楽ロックミュージックには、こちらの感情の高まりが急激に冷えていくのを感じた。
随所に流れる歌謡曲の音量の急な上げ下げも気になった。
自分がストーリーに入り込めなかった原因の多くがこの劇伴にある。

4.衣装について
旧日本海軍の軍服について事実と違う点が多々気になった。
まず、特攻隊員が左上腕に揃いの旭日旗のワッペンをつけていたが、自分の知る限り、特攻隊員は左腕にに日章旗もしくは円環デザインを用いた階級章をつけていた。(当時の腕の日章旗は手縫いであると思われる。旭日旗を手縫いするのはとても難しい)
中佐役の肩章が中尉のものであった。これは明らかな誤りである。
上官役(襟章では大将)の靴がどう見ても黒のスニーカーであり、そこばかりに目が行ってしまった。また左胸に略綬ではなく勲章を佩用していたが、礼服ではない通常軍服着用なのであり得ない。自身の威光を笠に着るキャラクターづけの意味合いがあるのか?もしそうであれば余計にピカピカの軍靴を着用するべきであろう。
もちろん舞台なのでフィクションが織り込まれているのは承知しているが、史実を扱っている以上、このような明らかな間違いはいけない。自分などよりもっと知識のある観客もいるだろう。観客がストーリーと関係ない部分に気を取られる事がないように、再現できる部分については事実に忠実であるべきである。

5.大西瀧治郎について
上官の大将(そもそもあの場面に海軍最高位将官が出てくる事が不可解である)のセリフに「大西瀧治郎は特攻作戦を短期で終わらせるはずだった」という内容があったが、大西は終戦直前に「あと二千万の日本人を特攻として用いれば負けはしない」という発言をしてしており、強硬な特攻作戦信奉者だった事に疑いはない。観客にミスリードさせるようなセリフは大いに気になった。

6.覚え書き
諸木少尉は上原良司氏をモデルにしたようなキャラクターであったが、上原良司氏は「戦死しても天国に行くから靖国には行かない」と言っている。
阿川弘之の名著「雲の墓標」からの引用を思わせるセリフがあった。予備学生達の戦争への疑問や特攻への意識が変わっていく様が詳しく描写されているので、これを機に読み返してみたい。

旧日本軍の特攻兵器は「神風特攻隊」「回天」が良く知られているが、他にも実戦に投入されたベニヤ板のモーターボート「震洋」、有人ロケット「桜花」がある
また実戦には投入されていない(投入できなかった)が、潜水具を使って潜った兵が、棒付き機雷を敵の船底に接触させる「伏龍」では訓練で多数の死者が出ている。
いずれも特攻で使用する飛行機がなくなり余剰人員となった飛行学生や予科練出身者を活用するため考案された兵器である。

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