満足度★★★★★
私はよく、性暴力やそれに限らずジェンダーの溝やままならなさを感じたときに「こういう世界に生きてる」という言葉を使うのですが、徹頭徹尾誠実に、こういう世界を描いている作品でした。
ネタバレBOX
胸糞悪くなるってよりは、ありうるよね、なりうるよね、そうなるよね、と。唯一のフィクションのファンタジーであり希望は女性弁護士の存在でしたが、彼女がもしあの子と恋愛関係にあったのなら、それもまた劇団主宰者の執着が結果的に女優の子を救ったのと変わらず、結局人間って「自分の」エゴ、自分のためにしか動けないよね、ということで、まあそれであの子(たち)が救われるなら結果オーライだけど、なんかもう笑うしかないよね、という気持ちになります。でも世の中なんてそんなもんですね。こういう世界に生きてる。そしてそれでも、あの女性弁護士の言葉に、気づいたら泣いていた。
一番「こわかった」のは、わりとストーリーの序盤、男性3人が計画を立ててちょっと笑いが起きるシーンの流れの中で「意外と世の中雑にできてんだよ」「女が2、3人消えたって気づかない」という言葉に客席で笑いが起きたことです。あははは。笑いごとじゃないんだよなー。マジ、これマジ。テレビやドラマの中の世界の話じゃないんだよなー。笑いごとじゃねぇんだよ。でも、たぶん「流れで笑える」セリフなんだろうな。正しいとか正しくないとかないけど、あぁまぁそういう認識が“世間”の“大多数”なのかと思うと、ヒヤッとするわ。まぁ今さらだけど。
劇中では坂本弁護士殺人事件がポロッと言及されていたけど、私がやはりどうしても思い出すのは、中学の頃ネット読んで初めて知った「女子高生コンクリート詰め殺人事件」のことで(私は1989年生まれなのでリアルタイムの報道は知らず、まとめられた概要で知ったのです)。事件を知ったとき理不尽さと救いのなさに混乱して、色々と犯罪心理学とか少年犯罪関連の本とか読んだりしたものです。そしてその上でたどり着いたのは、なんというか、ああ世の中ってそもそも理不尽なもので、災厄に合わないために何ができるかって、何やっても“運が悪かったら”どうしようもなくて、だから「祈る」くらいしかできないんだな、という、そういう考えを自分のなかのひとつの結論としました。この話まだまだ長くなりそうだな。ちょっと戻ろう。
ラスト、本気で抵抗するひとりの成人男性を成人女性3人がかりで抑えつけるの、力の差とか現実に即して真摯に描いていて、そういうことだ、そういうことだよ、と、思いました。さらにいうと前のシーンで成人女性が簡単に男性にねじ伏せられるシーンもあったりしたのでなおさら。しかしやっぱり目の前で人間がやってるということで伝わってくるものというか、情報量はすごいな……。
こういう題材を扱う作品にありがちな、ただただ悲壮感を煽ったり救いのない展開になるということもなく、登場人物それぞれが、それぞれの“正義”と“衝動”に基づく行動しかしてなかったので、イライラすることも気分悪くなることもなく、あーそうなるよね、と、現実世界に対する距離感と同じくらいの距離感で観られました。現実と同じくらい救いがなかった!(終演という一時的な結末があるだけ、現実よりは親切だ)
救いの騎士であるような女性弁護士、“救済”という役割であるにしては無神経に思える振る舞いが多くて引っかかるけど、そもそもの動機があの子への恋愛感情なのだとすると、とてもわかりみが強くなって、世の中の仕組み、って感じでよい。救済なんてないけど使えるものは使おうぜ!だけど、あの女性弁護士がファンタジーでなく人間であったことが、またどこか、救いなんだよなあ。私にとっては。
「こういう世界」と本気で戦おうと思った人でないと、法律を信頼しないと言って加害者を手にかける弁護士、なんて描けないんじゃないかな。最終的に暴力はどうしても暴力で解決されるのか、という話でもあるのだけど、それが世界、こういう世界に生きてる、んだよな、私たち。
私は評論家ではなく、特に鵺的に関してはもうただのファンなので、私の人生や価値観を通してしか作品を解釈・咀嚼できないのですが、だいたいこういう感想でした。
演劇としての見せ方の演出、ハンカチーフをテーブルクロスに見立てる場所の転換とか、南天の実が弾ける死に様とか(赤いビーズなんだろうけど南天に見えたのですよ)とか、技法的な面もとても面白く興味深かったです。目元だけ抜く照明とか。その辺りはまぁでも、メモ程度に。
救われないことも多いこんな世界だけど、まだ演劇にできることはたくさん、たくさんあるんだな。そしてまだまだ私は演劇に救われていくのでしょう。
いま出会えてよかった作品です。