たしかめようのない
ブルーエゴナク
スタジオ「HIKARI」(神奈川県)
2024/11/26 (火) ~ 2024/11/28 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
舞台に並べられたパイプ椅子、夢へのエントランスに見立てたハンガーラック、
光を遮断するカーテン、そして、その奥の窓。スタジオの無機質さとその備品を活用し、
「夢と現実の間」という劇空間を鮮やかに創出した前作『波間』。
まさに波と波の間で夢と現実とが擦れ合って音を立てている。そんな演劇だった。
そして、それらは当然のように「現実と虚構の間」に居座り、
やがて窓の外へと帰っていく私にとっても決して他人事ではない。
ブルーエゴナクの演劇は時間をかけてその実感を私に伝えた。
スタジオHIKARIにもまた窓がある。
『たしかめようのない』という作品はあの大きな窓の外から何を持ち込み、
そして何を運び出すだろうか。私は、この身体でそれをたしかめたい。
上記のようにコメントを寄せた、ブルーエゴナク『たしかめようのない』。
"存在感"という言葉が多出するも存在も不在も何を以てしてそうかはその実たしかめようがなく、
いるのにいない寂寞を感じる事も、いないのにいる強烈を覚える事もある。
世界に輪郭を握らせぬ不条理と空間の余白にこそ"存在感"が宿る演劇だった。
そういった意味で、本作もまた空間の扱い方に技術と個性が光っていたように思います。
それゆえに、今後も、様々な劇場や劇場的空間、その場とのマッチングや共振、あるいは違和や反発を観てみたい団体の一つです。スタジオっぽくない劇場での見え方も気になります。
青春にはまだはやい
プテラノドン
「劇」小劇場(東京都)
2024/11/26 (火) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
プテラノドン『青春にはまだはやい』最前列で。
もはや中盤からなんとか堪えてた涙、がラストスパートにかけ大決壊。
登場人物の多い作品において全員を等しくかつバリエーション豊かに魅力的に描くというのはとても難しいと思うのですが、その点において笠浦静花さんの劇作はいつだってすばらしくて。私は笠浦作品のそこが本当に好きなのだと再確認しました。
それぞれリレーのように隣人/他者への取材や紹介を経て絆を深めたり、自身を成長させていく様には、人と出会い、人を知り、人との間で生きていくことの豊かさが詰まっていて、主題であるNコン・ナレーション・放送というものへの解像度と深度の高さ、作家としてのテクニックも感じました。
また、「その後」を描くパートでの伏線回収の一つ一つにも愛が宿り、それらをクライマックスで最高温度でぶつけていく、というドラマを紡ぐ上で、何を飾り、何を差し引くかという技術の高さも感じました。
笠原さんの戯曲は、人間が可笑しく愛らしいものなのだということを、それらが交わる時間は美しいということを技術と情感を以ていつも信じさせてくれる。そして、それは各々の技と個性で物語に血肉を、いわば人生を吹き込む俳優陣の力が揃ってこそ最大に輝く。
柿丸美智恵さんの演じる17歳なんて何が何でも見たいに決まってるし最高にイカしてました。不器用な温かさを一身に纏った大内彩加さんがすごくすてきだった。
太田知咲さんのハグは観客の祈りをも引き取ってくれたものだった。
水野小論さんのキュートさ!愛しさに満ち溢れた105分。私もがんばって生きる。
ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix
waqu:iraz
スタジオ空洞(東京都)
2024/11/12 (火) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めてのwaqu:iraz。
『ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us-2024 TOKYO Remix』というタイトルの全てをまさに詰め混んだ意欲作。ロマンティック・バレエの代表作『ジゼル』を文字通り、"2024年の東京を生きるわたしたち"にリミックスした作品。社会や時代を貫く風刺のきいたラップもダンスも痛快で、それでいて変化に戸惑う人の声も置き去りにしないところに奥行きを感じた。
アリはフリスクを食べない 2024
やしゃご
劇場MOMO(東京都)
2024/11/14 (木) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
初日観劇。目の前で流れている涙に揺すぶられ、自分の目から流れてくる涙に抉られ、人と人の間で生きていく以上一つの答えなど出るはずがないと思い知った130分。自分の不足と過信を思い知った130分。
まっすぐ行けば着く道を何度も曲がって遠回りをして帰った。
全員のことを思うと、誰も何も悪くなくて間違っていない。でも、一人のことを想うと、みんなが少しずつ悪くて間違っているように思える。そういう果てしのないことに向き合う作品、向き合い続ける作家と俳優、そしてその奥でまさに今を生きている人々、その存在のことを考えた。答えは出なかった。
その人がもっているものではなくて、その人そのものだけで他者を見つめることができたならどれだけいいだろう。林先生の言葉に頷きながら、それでもその難しさに途方に暮れる。そして、その頷きや途方にすら不足と過信が否めない。足りぬ想像と過ぎる感傷の狭間で私はそう痛感する。観られてよかった。
戯曲も俳優も凄まじい作品だったけど、「満足度」という言葉とその余韻には乖離が生まれる。作品を見て満足するというのはどういうことか、ということについても考えさせられた作品でした。
そういう理由で、やはり今の段階で、”満足度”はつけないことにします。
観られてよかった気持ちとしては星5の気持ちです。
光の中のアリス
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
シアタートラム(東京都)
2024/11/01 (金) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
あまりに鮮烈な身体と言葉の端々を間に受けて、私は今どうにかもう一度本作を観劇できないものか考えあぐねている。凄まじく受け取るものが多かった。だからこそ、拙い私の一度きりの感度では正直追いつけないところがあった。
そのままにして余韻に任せることが観劇のスタンダードな在り方かもしれない。だけど、私はあの身体、言葉、あの瞬間にもう一度会わなくてはならない気がしている。焦燥に近い。そのままにはしておけない。
この作品のことをもっと分かりたい。あの身体を、言葉をもっと分かりたい。見つめたい。
"思い出"が一人で持ちきれないそのことと同じ様に、一度では持ち帰れないものがあった。
"思い出"が決してなぞれないのと同じ様に、二度観たところで最深部まで辿り着けるかなんてわからない。
だけど、それでも、まだ"思い出でない私"は今それを求めている。
光の眩しさが翻って残酷さになることをまざまざと握らせられながら、また、影の寂しさにやがて光のきらめきを思い知らされるように、生と死や動と静が、消えゆき生まれゆくあらゆるものが目の前で縁取られ、そして呆気なく溶けていった。その質量に、重量に私の心身は一度で耐えうることができなかった。
そういうことなのだろうか。わからない。わからないけど、本当はそれが全てなのかもしれない。
記憶する限り、辺りが真っ暗闇に包まれる暗転や、そこから分かりやすく晴れるような明転はこの舞台にはなかった。なのに、ここまで光が差し、翳り、失われていく瞬間が私には刻まれている。
そのことが私の中には何より深く残った。その残像がいつまでもくすぶって、あの光と闇の狭間から発せられた声が何度も私の中をリフレインする。そうだ、身体や言葉は元より、「声」が鮮烈な舞台であった。
一人の俳優から放たれる、温度も湿度も強度も違ういくつもの声、声、声。
ある時は身体をうんと伸ばしながら声をぎゅっとひそめ、またある時は身体を縮めながら声をひろげてゆく。
4名の俳優、そして2人の演出家の操る身体の所業の大きさに感嘆する他なかった。その波及をもっと見つめ、掬い上げられるだけの余裕が欲しかった。
人間のことも、世界のことも、まだ知った気ではいられない。
この作品はそんなことを私に強く伝えた。
私はこの作品をもう一度観ることができるだろうか。あの光の外から、その中の眩しいまでの残酷と切実に再び立ち向かうことができるだろうか。俳優も凄まじくエネルギーを要するが、観客もまたそれを要する。死に向かって生きるということは等しく凄まじい。そういうことをやり抜く作品なのだと思った。抜きん出た俳優の技と業に拍手をまだ送り足りない。
追記。
近親に耳が聞こえづらい人がいて、とくにこの1年一緒に過ごすことが多く色々なことを知った。音楽がとても好きな人だからもう少し先になりそうだけど、一緒に舞台を観る日もきっとくると思う。田中結夏さんの舞台手話通訳の回に観劇できてよかった。
おかえり未来の子
D地区
王子小劇場(東京都)
2024/11/02 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
一言では言い尽くせない余韻に導く意欲作。
関西での上演が中心とのことで初の観劇でしたが、緻密で丁寧な会話劇とそれを縁取り、時に取り残すような音や光の使い方も含めた演出も冴え渡り、戯曲も演出も俳優のお芝居も素晴らしい作品でした。
主題は宗教二世とその家族。実家から逃げるように上京した兄と実家に残された妹を巡る物語。
環境や出自からの「逃れられなさ」を描くとともに、兄から妹に向けられる父性のような愛情や愛着を掬いあげることによって、より人物やその関係の解像度が上がり、そのことによってさりげないセリフに仕組まれた奥行きにも気づくことができるようになっていて、デザインとしても巧みな戯曲であると感じました。
「宗教二世めが僭越ながら申し上げます。あなた方は、それを、お分かりにならない」
キャッチコピーにもあるように、その実態を知った気でいる観客に、より深淵を覗き込ませるような作品でした。
最も素晴らしいと思ったのは、誰か一人を悪者にするわけではなく、かといって過度に情をひけらかすでもなく、短い上演時間の間にも一人一人にそれぞれ生きてきた背景が浮かび、それに裏打ちされた人物像を演じていたこと。そのことによって、どのシーンを切り取っても重層的なドラマを感じることができました。
自分の知らないとこですごい戯曲や演劇がこうして生まれているんだと痛感。
今後の作品も楽しみです。
いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した
チャミチャム
水性(東京都)
2024/10/29 (火) ~ 2024/11/02 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
瑞々しく、芯の強い3人の俳優の瞳の輝きと揺らぎに照らされ続けた1時間。校庭も部室も屋上も渡り廊下も全部が見えた。恋も失恋も友情も、放課後の賑わいも、一人になった時の静けさも全部があった。
劇中歌であるハイロウズの『青春』の歌詞に擬えるなら「時間が本当にもう本当に止まればいいのな」と、思わず願う程に見渡す限り全てが世界だった、それだけで目一杯だった"あの頃"があった。多分どこかに私もいた。
誰かのしたためた言葉や歌の中にふと自分を見つけるとき、それは救いであり、祈りであるように思う。町を映す透明のガラスの上をすべるクレヨンの文字を眺めながらつくづくそう思った。
水性はやはり、その瞬間にしか味わえない刹那的かつ詩的な反応を生む場所だし、それをしっかりと気づかせる演劇もまた素晴らしい。ロロの三浦さんの紡ぐセリフの豊かさに改めて気づく観劇でもあり、その魅力が最前世代を生きる俳優と演出家によって瑞々しく新たに彩られる意義も感じた観劇でもあった。
若手の俳優陣によるこういった企画はとても貴重。
作品が時間を越え、世代を越え、幾重にも拡がっていく可能性をも秘めた企画だと思います。次回にも期待!
動物園が消える日
劇団唐組
雑司ヶ谷鬼子母神(東京都)
2024/10/26 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鬼子母神にて、10歳の娘と二人で観劇。
(『透明人間』以降娘の推し劇団でもあり、もはや推し活と化しています…!)
閉園された動物園を巡って動物の行方ひいては魂の行方を逡巡する人々。毎度ながら経年の滲む美術や装置に感嘆。
中央に聳え立つ旧式エレベーターが最後の一瞬まで物語とともに昇降/抑揚を重ね、劇におけるフィジカル面メンタル面いずれもの"屋台骨"として代替のきかぬ役割を果たしていた。
頭上から溢れ出る水は潤いよりむしろ渇き、灰牙の表情にたしかな消失と喪失をともに見る。
藤井由紀さん演じるオリゴの後ろ姿が導く情感と余韻よ…。
これまで観てきた唐組の中で、笑いの配分が最も多いようにも感じました。
若手の俳優さん達の言葉の解像度や浸透力がめきめきあがっていて今後が楽しみになる公演でもありました。
4回目の唐組となった10歳の感想は「今までで一番お話が読み込めた」とのこと。
ラストの感動冷めやらず、「ふじいっ!」と初の大向こうまで(ギリギリまで"さん"付けるか迷っていた!私もまだやったことないのに先越された気分!)充実の推し活になった様子でした。
すべてはポーズでしかない
三転倒立
すみだパークギャラリーささや(東京都)
2024/10/25 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めての三転倒立。同居する二人、本屋の店員さんとお客さん、ヨガの先生と生徒、姉と弟…と様々な形の二人のやりとりがシームレスに繋がっていくことで一つの町(つまりそれは社会)の様相が浮かび上がってくる。ポーズをとること、とらさられること、とらざるをえないこと…あらゆる世界への問いかけが満ちた100分。
生活の中で遭遇する様々な違和感や疑問、祈りや切実が端々に忍ばされていたように思います。
そういった、なかったこと/知らなかったこと/見なかったことにされがちな事柄に辛抱強く向き合い、光を灯そうとするような作品でした。
他者を恐れ拒む時、それはつまるところ「わからなさ」からだろう。そこを飛び越え、世界を変える事は難しいけれど、飛び越え/変えようとする事はできる。そう信じる自分でいたい。たとえ最初はポーズでも。そして体がとるポーズと心がとるそれは違ったりもする。そんなことを考えたりもしました。
おまえの血は汚れているか
鵺的(ぬえてき)
ザ・スズナリ(東京都)
2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
全員名字が違うきょうだいの30年ぶりの再会、その背景にある殺人事件の真相を巡って互いが互いの今を揺すぶっていく。
タイトルに違わず、終始ひりひりした会話が続く95分。そして、その緊迫をドライブし続ける俳優陣の集中力と推進力に舌を巻く。
妊娠出産を経験しているがゆえに、どうしても「母」や「妻」である3人の俳優の視線を目で追ってしまった。みなさんすごく細やかで瞳の雄弁さを痛感。名字を変えても、会うことがなくとも付きまとう血縁と埋葬しきれない記憶、そして罪。さらに私は本作に"逃れられない母性"をもみた気がする。
血縁を繋いでいく、いかざるをえない状況が身体に起こるということ、それによって抗い難い本能に苛まれるということ。母性は輝きだけではない。夕暮れの灯りに包まれるラスト、長男の妻の台詞に一筋の光。毎度ながら、舞台美術、音楽、照明が素晴らしく、鵺的ならではの総合芸術の力を堪能!
8hのメビウス
ウンゲツィーファ
スタジオ空洞(東京都)
2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ウンゲツィーファ10周年公演であり、本橋龍の最新の長編作品。上演時間に及び腰になっている人にほどおすすめしたい作品でした。140分どこを切り取っても不可欠で少しの弛みも感じなかった。俳優陣の大健闘に思わず感涙。
一見8の字を辿るかのように同じ繰り返しに見えても"淡々とした日常"など本当はどこにもないのかもしれない。その往路と復路の途中で人と人は時にすれ違い、ぶつかり、時に重なり、交わり生きていく。それぞれの幸福を追求しながら、それぞれの不幸に戸惑いながら。
8は横にしたら∞なのだ、とそんなこともふと思った。ハード面ソフト面ともに細部に凝らされた工夫と饒舌な行間に演劇の無限の可能性を幾つも見た。
「普遍的な時の中でこそ人の心は泡立ち、擦れ、やがて波となり、いつしか予想もしないうねりとなっていく。感情の発端と経過に目を凝らし、耳を傾けなければ生まれようのない風景。その痛切と祈り。生活の隙間に落とされたものを決して落とされたままにしないウンゲツィーファの演劇を私は追い続けたい」
そうコメントにお寄せした通り、いやそれ以上に生活の隙間に落とされたものが掬い上げられていた。それは救いであり、禊ぎであり、過ちでもあり、祈りでもあった。
それら瞬間を余すことなく切々と演劇に取り込む本橋さんは劇作家や演出家というよりも演劇作家という言葉が本当によく似合う。素晴らしかった。
再演『エリカによろしく』
イエデイヌ企画
SCOOL(東京都)
2024/10/18 (金) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
イエデイヌ企画初見。
最初から最後までどこを切り取ってもとても丁寧で、余白や行間こそが饒舌な演劇でした。飾り立てた台詞や過度な演出はまるでないのに、こちらに考える/想像することをやめさせない。そういった、ある種の達観のようなものがあり、二人のやりとりを取り溢すまいと見張りました。
静かながらも、時間の経過と関係の変化が相乗してドラマをドライブさせていくようなうねりもあり、自販機やそこから出てくる飲み物の種類といった別れの風景が心に彫刻されていくような痛みを感じたり、また、思い出したりもしました。(そういう風景の解像度ってなぜかやけに高いんだよなってしみじみ感じたりも)
タイトルへの帰結に余韻がどこまでも広がる。次回も楽しみです。
ドクターズジレンマ
せんがわ劇場
調布市せんがわ劇場(東京都)
2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
日本初演ということで、それ以上は特に前情報を掴むことなくフラットな状態で観劇。
上演時間が2時間半と聞き、少し構えたけれど杞憂でした。さすが手練れの俳優陣、空間を引っ張っていく力が大変大きく、終始のめり込めました。あと、休憩のタイミングがまた絶妙(これはとても大事)。
貧富や立場の差、才能の優劣を秤にかけ、人は人の尊厳を選定することなどできるのか。
医者たちの慢心や欺瞞が皮肉に描かれていく様も興味深かったです。
また、ドクターズのみならず芸術家の生き様、アーティストジレンマも照射。不遜と愛嬌を併走させる俳優陣の技と力も、小さなニュアンスに真意が光る翻訳も素晴らしく、豊かな観劇でした。せんがわ劇場ますます目が離せない!
キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2024/09/29 (日) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
東京芸術劇場主催の中高生のためのクリエイティブCAMP2024、ゲゲキャン。まず、タイトル『キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする』にもとっても惹かれた。バレエにヒップホップにダンスに夢中、最近はコンテポラリーが気になる10歳の娘と、まだまだ考える前に動き出す感性を持つ6歳の息子と観劇しました。
身体の鮮やかな煌めき、心の解放と躍動にこちらもつい前のめりになる時間。 火が灯されればその赤を見つめ、星が瞬けば空を仰ぐ。そういう正直な、祈りのような反射を私たちはこの身体をもっているんだなと改めて...。子どもの五感はもちろん、大人の体や心に子どもの頃から刻まれ、流れ続けているものに触れられるような時間でもありました。シリーズ化に期待!
ビッグ虚無
コンプソンズ
駅前劇場(東京都)
2024/10/16 (水) ~ 2024/10/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初日からずっとまとまらないまま考えてる。金子さんがインタビューで仰っていた通り"やりたい放題"に"全部を詰め込んだ"作品だった。そして、その"やりたいこと"と"全部"の中に逃れようのない今があった。これまで以上に悪夢のような現実を、社会を、世界を穿つ鋭い視点。
「鋭い」の後に「切実な」と一度書いて消した。切実と言われる自身に対してのカウンターみたいな作品でもあった気がするから。 自分もまた暗部の一部なのだ、と言わんばかりの作品だった気がするから。そして、それはそのまま観客も等しく持ち得る、または持ち帰らざるをえない悪夢で混沌だろう。
観客にとっては過去作のどの作品に強く惹かれたかによって、そして演劇に何を求めるかによって本作の好き嫌いや賛否は分かれるけれど、作家や劇団にとってはこの悪夢と混沌、そして虚無こそが現在地であるからして、私はやはりそれを見届けることをいつだって選ぶだろう。 意図的にかはわからないけれど、個人的には『ノーカントリー〜』以降の作品の源流にある様々な要素を点在させているようにも見えた。そこに劇団のある種のシークエンスを見たりした気もするし、コラージュされた様々の集結にある種の臨界点を見た気もする。
THE STUBBORNS
THE ROB CARLTON
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2024/10/04 (金) ~ 2024/10/14 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
THE ROB CARLTONの初見となった 『THE STUBBORNS』(MITAKA ”Next”SELLECTION)。 思い立って当日券で観劇。
言い間違い、聞き間違い、読み間違いから、さらに記憶違いへ...。あらゆる誤読や誤解が巻き起こす珠玉の勘違いコメディ。そして、爽快で人間味溢れるユーモラスな3人芝居でもある。
(京都の団体ということもあり)東京で知られていないと仰っていたけど、それで観逃すには余りに勿体ない85分だった。思い切って駆け込んで本当よかった。こんな出会いがあるからやめられないな、観劇。
日本語特有の複雑さと奥行き、人間の可笑しさと頑なさを清々しいまでに使い果たした上質の喜劇で笑いっぱなし。観終わって改めて気づくタイトルの秀逸。2人が話してるシーンも面白のだけど、その間のもう1人の表情も抜かりなくて、3人芝居としても素晴らしかった!
また絶対東京にきてほしいし、帰省にかこつけてホームの京都でも観なあかん。(不労社にせよ、熱いぞ京都!)
個人的には会議シーンにおいて女性の方がより客観的かつ冷静に物事を見ている、という描き方も好きだった女性というだけでしばしば感情的と揶揄されがちな面があるけど、そういう女性の描き方をまるでしてないところすごくよかった。勿論性差問わず起こる誤解はユーモアたっぷりに描かれてるのだけど。本当に気持ちのいい、上質な、だけどそれが振り切っているからこそ個性的なコメディだった。
(上質って書いておきながらなんですが、話の内容は全く難解でもなんでもなく、ご本人が仰る通りまじで不要不毛のくだらないやりとりです(笑)そのくだらなさの解像度にブーストがかかっていく様、それらに振り回される3人の様子が実に爽快!私も初見でしたが、1mmも構えず観られました)
夏の毛になる
内藤ゆき企画
下北沢 スターダスト(東京都)
2024/09/05 (木) ~ 2024/09/07 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
駅で保育園の先生に「お出かけ?」と聞かれ「観劇に」と答え「今から?!」とまず驚かれ「21時です、でも炊飯器でお米炊けたら終わるから長くなくて」と伝えたら「えっ、ちょどういう」となり「しかも早炊き」と言ったあたりから先生が無になる、などを経て観てきました(笑)
その名も、炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』です。
(通常と早炊き迷いつつ、コンプソンズの鈴木啓佑さんが出る日に!しかも初日だ!というのもあり早炊きに。)
好きな人に選ばれなかったことがある人、そのことで長く苦しんだことがある人と感想を分かち合いたい。そう思った。
基本的には可笑しくかわいらしいお話だけど、私はきっちり切な痛い苦しかった。
終盤内藤ゆきさんがずっと泣き出しそうな気がして、それは目がうるんでるとか赤いとか肩が震えてるとかそういうんじゃなくて、佇まいから受信する何かで。そして、それは多分自分の心理状態とも連動していて。こういう瞬間に俳優ってすごい仕事だなって思う。演劇観ていてよかったと思う。そのために観てるのかなとか思う。
夏の終わりの侘しさと恋の終わりの寂しさが肩を寄せて励まし合っている。そんな演劇だった。
それこそ米を炊き子どものご飯つくってから観られるのもありがたかったな。もちろん早炊きで炊いた。
「泣きながらご飯食べたことある人は生きていけます」(ドラマ『カルテット』by坂元裕二)という言葉も響くけど、きっと泣きながらご飯食べているんだろうな、という風景がその人の背後に浮かぶお芝居も強く心に残る。つらいときこそご飯炊いて生きていきたい。
悪態Q
劇団不労社
北千住BUoY(東京都)
2024/09/06 (金) ~ 2024/09/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
京都を拠点に活動する不労社、初観劇。名前の読みにキュウが入っていたら適応される”キュウ割”というユニークなチケットもあり、丘田の丘のキュウで適応していただきました(笑)。
ユニークなアプローチはもちろんそういった取り組みに止まらず、上演そのものも冒頭からぐぐぐっと不労社ワールドに引き込まれ、いや、「引き込む」というよりむしろ「引き摺り込む」という表現がしっくりくるような引力に呆気に取られた90分。
BUoYという独特な空間をこの上なく活かして、恣に劇世界を構築する強度、そしてその空間に一人でも十分に耐えうる俳優の抜群の表現力×3人、タフなオリジナリティにによって、完全にその場を”占拠”していたように思います。東京でも、他の地域でももっともっと上演してほしい!
内容を語ろうとすると、感覚の裂け目からその魅力がこぼれ落ちていくというか、劇そのものが持つ独特の磁場や強烈なムードを語る言葉を自分がまだ得ていないことが悔しい。
兎にも角にも、最高の訳分からなさ、次から次へと見た事ない風景、Questionと悪態の応酬で痺れました。
昨日みた悪い夢の様で明日起きる破滅の様でBUoYの造り、冷徹で渇いた空間と完全なる共振に到達。俳優の技術力とスタミナも凄まじい。
不気味なのは存在?不在?果たして何方か。
刺青/TATTOOER
ルサンチカ
アトリエ春風舎(東京都)
2024/09/20 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初日。表題作のみならず『春琴抄』や(個人的には)『猫と庄造と二人のおんな』などに見る谷崎の作家性、ひいては人間としての性やフェティシズムを改めて暴き直すような印象も受けてとても面白かった。
谷崎の文学には平気に「お前は俺の作品」、「お前を立派な女にしてやる」的な言葉がじゃんじゃん出てくるけど、男性にとって女性がそういった「被写体」やら「モデル」として消費されたり、また「ミューズ」と神格化されたり、いずれにしても実体をぼやかされ収められてしまうことへの抵抗みたいなものを感じる部分もあって、そこに谷崎自身の依存や憐憫が重なっていくようで"今谷崎を上演すること"へのこだわりを端々に感じました。
ある時は運命を分け合うように、またある時は共闘するかのように視線を交わし、身体が離れている時ほど一体感を魅せた蒼乃まをさんとAKI NAKAGAWAさんの在り方、居方が私はとても好きだった。上演時間もコンパクトで観やすいけど、一幕と二幕を分けること、また、ライブドローイングによって隔てることにも大きな意味を感じました。
鋭く広い視点で"今"を見つめる兼島拓也さん、河井朗さんという二人の気鋭の劇作家ならではのタッグ作!イギリスでの反応もまた気になります。
球体の球体
梅田芸術劇場
シアタートラム(東京都)
2024/09/14 (土) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これとこれをそう結びつけるのか、これがそんなことに繋がるのか、という感嘆や驚きがありつつ、その何を書いても核心に触れてしまうから書けないのが悩ましい!(やら凄いやら!)
ダークファンタジーのようで、その実"親ガチャ"をはじめ、リアルな現代社会にアクセスした物語で、その繋げ方がまさに池田節。岸田戯曲賞受賞後初の新作でもある本作、池田さんの作家性の新たな側面を覗けた様な観劇でした。
美術や劇構造の個性、これまでの歩みで扱ってきた題材の要素が端々に散りばめられつつも、ゆうめい作とはまた別のモーターで動いているような。
ヒヤッとさせるところと笑わせるところが双方きっちり押さえられていて、かつ4名の芸達者な俳優が小さな球も逃すことなくクリーンヒットを。一人の人間が舞台に立つことで生じるエネルギーをまざまざ魅せられ、それぞれの身体性にうなりました。