満足度★★★★★
あー、全部ネタバレboxに突っ込んじゃったw
ネタバレBOX
観劇後、私はその余韻に浸りながらある人に言った(といってリプなのだけど)言葉を思い出していた。
「頑張れ、応援してるよ、君ならできる。そんな風に言われなければ頑張れないようなものを僕は夢とは呼ばない。いいかげん大人になれ、諦めろ、身の程を知れ。そんな風に言われても諦められないもの夢と言うんだ」
確かそんな内容を含んでいた。
真に夢を追う者は孤独だ。その孤独を誰も癒すことはできない。ただそんな孤独のあることを知ってくれている人がひとりでもいてくれたら、耐えることはできるかも知れない。光源氏という夢を追う末摘花にとってそれが侍従だった。
末摘花は劇中何度となく試される。これでもまだ夢を追い続けることができるのか、それでもまだ夢への情熱を維持できるのか。彼女はその度に大切なものを失っていく。侍従を手離すとき、彼女は髪を手向けとした。これを自分と思ってと言い添えるのは、侍従がこれから向き合わねばならない孤独を知ってのことだろう。だがそんな気持ちも宰相に嘲笑される。それによって彼女は宰相を失う。
それだけではない。彼女は少将をも失なう。少将が柱に抱きつくシーン、あれは侍従の幼かった日々を思ってのことだろう。その少し前に末摘花が柱の一本一本に父の思い出があると言っていたのを思えばそのすれ違いが切ない。侍従を失なう少将に甘えて見せるのは末摘花の優しさにも見えるが、少将の反応は鈍いのである。
そして最後の試練は光源氏の来訪である。彼女は夢を失なうのだ。
光源氏の来訪は彼女の夢が破れた瞬間である。彼女は生活の支援者を待っていたのではない。門の前で末摘花を思い出したという光源氏の言葉に触れて、彼女は自分の待っていた人はもうどこにもいないのだと悟る。それでも光源氏を追い返してしまえば、名実ともに全員が自分の元を離れていくのがわかる。といって彼女はそれが嫌で我慢するのではない。自分の夢にぶら下がってきた人たち。そんな人たちの生活のために耐えるのだ。美しいべべを着て立つ彼女の背中に現れる孤独は尋常なものではない。
だが観劇後、私の浸っていた余韻は不思議と悲劇的なものではなかった。私には末摘花は今後不幸にはなるまいという信頼があった。そう、それは信頼だった。彼女は自分の追ってきた夢が光源氏では無かったことに気づくだろうという信頼。そんな不思議な余韻が長く続く作品だった。