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第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

DULL-COLORED POP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了

満足度★★★★

 第2部について(チケプレによる観劇)。
 イプセンの『人民の敵』を想わせる、いわゆる社会派の悲喜劇。大傑作とは言わないが良くできた戯曲で、岸田戯曲賞くらいならもらって当然だろう。演出もそれなりの水準。役者も総じて良く、特に主役を演じた岸田研二が素晴らしかった。自分の政治的イデオロギーに都合が良かったか否かで判断するような人でなければ、十分楽しめるはず。(初心者も含め)演劇愛好者に広くお勧めできる。
 

ネタバレBOX

 『人民の敵』を想わせると言っても、イプセンの主人公とは違い、本作の主人公である父親は、自己の信念を貫くことができずに転落する。この「父の転落」が、強大な父なるエネルギーである核エネルギーと、その利用を国策として推し進めた父なる体制の転落と呼応するのであり(本作で直接言及されるのはチェルノブイリのソ連だが、観客は第3作で描かれるはずの日本を想起せざるを得ない)、その二重性が作品の骨格をなしている。実際、原発問題の芸術的可能性(政治的可能性ではない)の中心の一つはこの点にある。本作がそれを活かし切っているとは言わないが、これに触れえた貴重な例であるのは間違いない。
 この作品は、自分の敵を投影・醜悪化して(、あるいは味方を投影・美化して)満足するような単細胞な芝居とは異なるのだ。自己理想を実現・維持できない一人の男の悲哀と苦悩を、大袈裟な滑稽感と同時に深い共感をもって描くのであり、そしてそのために駆使される演劇的技術の質は高い。それは虚心に観る者を、主人公への同一化一辺倒にも対象化一辺倒にもならないバランスの中で、単なる時事問題・社会問題を超えた普遍的主題・人間学的主題へと導いてゆく。観客は、原発問題については一家言持たねばならぬといった政治的アイデンティティを括弧に括り、己の芸術的感性を十全に押し広げさえすれば、主人公の転落の苦痛、堕落の汚辱を、自己解体の享楽へと転換せしめることができるだろう。

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