満足度★★★★★
流石は幻想芸術集団!
退廃的で陰鬱とした独自の世界観は好き嫌いが大きく分かれるところではあると思いますが、その指向する世界に対し そこまでやるのかと思うほど吹っ切れた姿勢はむしろ心地よささえ感じ、夢の中に閉じ込められている時のような不安定な感覚を舞台上に再現している点は、流石は幻想芸術集団と納得させられるもので、お芝居としても素直に楽しめるものでした。
ネタバレBOX
どこか虚ろさを感じさせる装飾的で迂遠な言い回しや含みのある台詞の掛け合いなどを多用しつつ、前半から中盤にかけては大きな起伏もなく緩やかに進行しているようですが、その中でも随所に答えの見えない謎かけが仕込まれ、それに対するフラストレーションと、緩やかに停滞する空気の圧迫感が限界に達したところで世界の秘密が明かされ、それと同時に、いつ果てるともなく滞留する重苦しい空気が一転し、台詞の端々に巧妙に埋め込まれた伏線を回収しつつ、エンディングに向けて一気に駆け抜けていく後半の展開は疾走感と爽快感に満ち、やがて澄み渡った空気の中で静かに迎える終幕には緻密に計算された構成の妙技を感じました。
出演者たちの繊細な演技も際立っており、イタチ、ラレが喜ぶ、哀しむ、淋しがる、強がるといった様々な感情の起伏を生者としての活力を伴って演じ、また、生者と死者の中間に存在するミュルテが生者には生者に対しての、死者には死者に対しての表情の違いを演じ分けたことによって生者と死者の間に一線を構築し、物語の結末に強い説得力を持たせていました。
特にラレについては、低音域から高音域までを要求する難易度の高い曲をこなしつつ、さらに歌い方を分けることによってラレとリゼロッタという同じ登場人物の異なる立場までも表すという離れ業をやってのけ、その歌唱力と表現力は絶賛されるべきものがありました。