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心の中、翼ひろげて

心の中、翼ひろげて

夏色プリズム

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/02/27 (木) ~ 2014/03/03 (月)公演終了

満足度★★★

テーマは良かった
泣けるシーンはありましたし、登場人物の心情には共感できるものもありました。
ただ、設定や背景は未完成で中途半端。扱うテーマがテーマだけに、やや説得力に欠けます。
結局何を描きたかったのか?何を伝えたかったのか?
モヤモヤが残る舞台でした。

ネタバレBOX

まず、この舞台設定の中での「性介助」の必要性ですが、
施設の住人は車椅子ではあるものの、両手が自由に動かせるので手淫は自力で行えるだろうということ。
また、全員若い男性の障害者ばかりなのでまるで擬似恋愛の延長に見え、看護士に奉仕を求めるのは単なる患者の甘えのように映った。
それに、作中で看護士に「ゴムを使えば100%妊娠出来る」という台詞を言わせているけれど、コンドームは性病を予防するためのもので妊娠を防ぐためのものではない。ちょっと認識が甘いのではないかと思った。
あと、サトコさんの、好きな人の子供が産めなくなってしまって…からの、この施設で働きだす経緯が全く理解出来なかった。
この作品が「性介助」ともう一つ、「妊娠」というテーマを語る上で「好きでもない人の子を妊娠するハルカ」の対極として「好きな人の子を産めないサトコ」の存在が必要だったのはわかるとしても、
子供が産めない⇒じゃあ障害者のヘルス嬢になろう、はやや強引では?
それまでずっと介護の仕事をやっていて、でも彼氏への義理があって性介助だけは出来なくて…という経緯があるならまだ解る。
でもそれまで普通の仕事をしていたのを辞めてまで何故???という感じ。
「子供に囲まれて過ごすあなたの夢、私が全部奪っちゃうんだよ…?」というサトコさんのお芝居には同じ女性として身につまされるものがあり、思わず泣いてしまったけれどそれはそれ、これはこれとして
「どういう心境でここで働き出したのか」、ってところには全く繋がって来なかったのが何だかなぁというところです。
ユウコさんとシュンちゃんの結婚にしても、これは一つの愛の形として完成してると思うのですが、ユウコさんが他の人と比べてなぜああも迷いなくこの仕事に従事してるのかもよくわからなかったし、シュンちゃんの最後の「結婚してもここで働いてもらうからな!」は売り言葉に買い言葉だったとしてもウーン…と唸ってしまった。
やはり「何だかなぁ」という思いが残る。


あんなに優しそうな所長さん夫婦が、「避妊はしっかりね」などと、堂々と手淫以上のこと(本番行為)を薦めてくるのにも驚いた。
むしろ、建前だけでも「本番行為は絶対だめよ」と言ってほしかった。どうせ陰では皆やっているのだから、そこは当人同士の判断に任せて黙認しているのでも、全く気付いていないのでもいい。
施設公認で本番行為を認めている、という設定のせいで
どうしても所長夫婦が極悪人に見えてしまう。
所長さんの話に出てきた「車椅子の少年」、もそう。
唐突に、ある日出会った車椅子の少年が奥さんを笑わせてくれた・・・だからこの施設を作ったんだよ。と言われてもポカーンという感じ。
車椅子の少年が何をどうして奥さんに笑顔を取り戻させてくれたのか?一切説明なし。
上記のことを踏まえて、奥さんは「車椅子の男の子」というアイコンに対して特別な感情がある。だから若い女の子たちを使って性的なサービスをさせている。
所長さんは奥さんが笑っていれば幸せ。障害者にも性介助にも興味なし。
という「所長さん夫婦が精神的に病んでる」設定であればまだ説得力があるし、「車椅子の少年」というキーワードも活きてくるのではないかと思うのですが…。
「性介助」はさておき、全体的に土台となる設定に気になる点が多くてあまり深く観れませんでした。
結局性介助ってなんだったの?という印象。
必要に駆られてやっている感じも、患者との恋愛感情の末にやっている感じもなく、特に美談にされる要素も無いのにハルカちゃんのお兄さんもなんとなく最終的に受け入れてしまって、全くもって「何だかなぁ」なのだ。

 
役者さんは、ハルカちゃんのお兄さん役の俳優さんがとても良かった。
物語のキーパーソンであるから存在感がないといけないのだろうけど、この人の憤りはそのまま見ている側の心情を代弁してくれているものであったので、セリフには凄みがあり言葉の一つ一つも心から湧いてくるように発せられていてとても良かった。
サトコさん役の女優さん、あとアキヒト君役の俳優さんも雰囲気があり、とても良かった。
あとは「台本のとおりにセリフを言っているだけ」に聞こえる演者さんも多く、お芝居としてはやや物足りなかった印象です。
感情の昂ぶりが声の音量だけで調節されていたりと。
これはお芝居で、脚本もあるから自分のセリフの後に相手が何を言うか予めわかってるわけです。わかってるからこそ相手のセリフを受けてから、心が動く「間」もなく次のセリフが出てきてしまう。結果、本来はそこにあるはずの感情の揺れ動きが無くなってしまうので、セリフの押収が単なる「作業」みたいに見えてしまうシーンもありました。


テーマは良かっただけに作りこみの甘さが目立つ作品でした。

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