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劇団appleApple
ギャラリーLE DECO(東京都)
2012/01/11 (水) ~ 2012/01/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
複雑さと端正さのまじわり
今回、革新的な道具使いと、いっそう複雑さを極めながらも、逆に近年その構成に端正さを増し続けている台本と演出とによって、じつに斬新な舞台をつくりだしていると感じました.そこでは一貫して、人間の実存の苦悩とそれに向き合う人間とを、胎外と胎内などの虚構的な二つ世界の対立と越境により描き出そうとしており、つまり永妻氏のこの舞台では、人間の普遍的な問題が、彼独自の言語的かつ空間的世界の展開によって、追求され続けていると感じました.今回さらに特筆すべきは、彼のこれまでの芝居が、ついて来られない観客を、少し置いてきぼりにする感じがあったのに対して、(前作の「手紙」くらいからか)芝居の展開中に、観客に対してなんどか手を差し出して、引き連れていこうとしているかのように感じた部分があったことです.これは計画によるものか直観によるものかはわかりません.しかしそれは、優れた意味で彼の芝居の間口をほんの少しだけ広げ、それを享受する人をほんの一人だけでも増やしたかもしれません.
なお、個々の役者もその相互の関係も、この上なく優れていたと思います.しかし私はあえて、萩原美智子氏を評価したいと思います.彼女は、じつに適格に演じたそのいくつもの役で、あまりにも速いスピード感をもつこの芝居に、決して暴走することのない端然としたテンポ感の裏打ちを与えていたように感じます.