古典
「桜の園~アントン・チェーホフ~」と古典であることを押し出したかのような題名だが、斬新な演出。むしろ桜の園の台詞を借りた別作品のような印象。
ネタバレBOX
70分にまとめられた今回の上演では、元の戯曲の約三分の二程が削られた印象。チェーホフの脚本の醍醐味とも思える緻密に構成されていた人間関係は見えづらくなり、まるで突発的な行動を起こし続ける人間の集合体に見えた。正面を見据えて座る登場人物達は次第にお人形のようにも見え始め、ラネーフスカヤの子ども部屋で繰り広げられるままごとめいてきて不気味だ。のっぺりとした照明がその色合いを強める。ダンスシーンのスモックのような衣装、金貨の代わりのおはじき、随所に子供っぽさが滲む。
誰がこの世界を外から操っているのかと言う興味は、皆が椅子に腰掛けると言うメタファーによって宙に放り出された。強いて挙げるとするなら、それだけが生き生きと響いていたあの効果音だろうか。
チェーホフの言葉のみを借りた桜の園では無い何かを観た気分だった。当日パンフレットによれば次も古典に取り組むとの事だったが、今回と同じ印象になってしまうとしたらこの取り組みの意義に疑問を感じる。しかし、全く違うものを提示されたならば、併せてこの作品も評価したいと思う。