かいころく 公演情報 かいころく」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
1-2件 / 2件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    蚕(かいこ)にまつわるお話を同時上演する企画公演。2026年現在でレパートリーが三作あり、この先演目が増える可能性もありそう。当パンによると「元養蚕農家で上演する作品」を依頼されたことがきっかけだとか。これらの演目を養蚕と縁のある土地で上演するとか、想像しただけで激アツだなぁ。

    上演前に作・演出の私道かぴさんによる「蚕に関する前説」があり、これも良かった。私道さんが「蚕にあまり馴染みのない方もいらっしゃると思うので、少し解説を」と仰っていたが、上演作品と観客の間に、こういう丁寧なコミュニケーションを挟んでくれるのはとても有難い。

    ネタバレBOX

    僕が観劇した日は、創作した順番に観劇できた。蚕や養蚕そのものにスポットが当たる(ように見えた)『養蚕農家編』、製糸業が盛んになり、女性の働き方や工場労働を描いた『工女編』、そして、蚕の飼育や品種改良をモチーフに、市井の人々の楽ではない暮らしぶりや、その生き方、命の問題を描く『蚕種編』。この順番で観ると、「蚕」を起点とした作り手たちの興味や問題意識が、徐々に拡張・発展していることがよく分かる。また全ての作品で、人間と、その営みを描いており、産業の歴史を俯瞰視したようなドライな作品ではない。

    2月に上演された前作『よそほひ』もそうでしたが、出演者1〜2人の少人数体制での創作&上演が、作品そのものを形作っている点も興味深い。一人の俳優が何役もこなし、落語のように掛け合うシーンなども、この団体や作品の特徴でもあり、この形式の必然でもある。3都市ツアーを行うことも含めて、細部までよく計算&配慮された創作だと感じます。

    ……などと考えていて、ふと会場内の床に目をやると、モチーフの根幹とも言える繭が床上に散らばっている。もちろん意図的に配置されているのですが、ここは妙な「雑さ」を感じ、こういう全体バランスも魅力のひとつと感じました。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「人間の営みから歴史を浮かび上がらせる試み」

     近代日本の主力産業であった養蚕業(よんさんぎょう)を題材にした「かいころく」三部作を、全国三都市で一挙上演する企画である。横浜公演の初日を鑑賞した。

    ネタバレBOX

     2023年初演の「養蚕農家編」は、ある青年(森脇康貴)の内的葛藤を描く一人芝居である。養蚕を生業にする家庭に生まれた青年は、はかない蚕の生き方にいつしか自分自身を投影する。丹精込めて育ててもやがて殺して絹糸にしてしまう蚕に、母が精気のない眼差しを向けていた日のことを、青年は強く記憶していた。やがて青年のもとへ召集令状が届く。そのとき母から向けられた眼差しに、彼はあの日の記憶を重ねるのだった。蚕が口から繭糸を出す指先の美しさや、転げ回りながら青年の苦悩を体現した森脇の動作が強く印象に残る。

     2024年初演の「工女編」もまた養蚕農家に生まれた人物の一人芝居であるが、数世代間に渡る女性たちの物語を軸に、近代日本の歴史を明確に浮かび上がらせた点でより広がりのある作品である。不慮の事故で父を失ったゐと(山下裕英)は、一家の稼ぎ手となるべく製糸工場へ出稼ぎにいく。似たような境遇の女性たちと寝食をともにしながら十年ほど勤め結婚、生まれた娘もまた工女として働く。終戦を迎え次第に養蚕が廃れていくなか、ある日孫に言われた一言にゐとはハッとする。それはかつて自身が祖母にかけたある言葉を想起させて、ゐとは時代の移り変わりをまざまざと感じるのだった。少女から大人、そして老人まで幅広く演じ分けた山下の力量に瞠目するとともに、糸を巻く仕草がじつに美しく映える一作である。

     本公演の新作「蚕種編」は江戸時代に養蚕を学び周囲に広めていった男性(沢栁優大)を描く前半と、明治時代に家計を助けるため蚕の鑑別の職務にあたる女性(雛野あき)を中心にした後半で構成された二人芝居である。

     前半の主人公は水害で家業を失い養蚕を学ぶべく遠路はるばる奥州へ旅立ち、そこで弟子入りした人物から会得した養蚕の術を惜しむことなく周囲に広めていく。彼のお人好しぶりを宿で偶然居合わせた薬売りが皮肉るが、自分が学んだ技術を広めみんなで幸せになるのが一番であると淡々と諭したくだりに、作者の面目躍如と沢栁の口跡が光った。

     後半の主人公は学がなく住み込みの職を解かれ呆然としていたときに蚕種の職に就く。彼女にとって養蚕はあくまで生活の手段であり思い入れは強くないが、着実に昇進し指導する立場になる。しかし自分に仕事を教えてくれた同僚が体格のよくない蚕を弾く様子を見て、生まれてこの方言葉を発さず周囲から冷遇されている自分の弟を想起するのだった。よりよい繊維製品を生み出すためにさまざまに掛け合わせた品種改良も、優生思想に近いところがあるという静かな指摘にハッとさせられる。蚕種について多くを学んだのであろうが、他作品と比べると情報過多で説明的になってしまった点は残念であった。

     三作ともに周囲を客席で囲んだ逃げ場のない空間で、演者のさまざまな表情を感じることのできる贅沢な作品である。登場人物それぞれに合わせ仕立てた衣装が、静謐な照明と抑制的な音楽もあってよく映えた。その分屋外の音が頻繁に聞こえてくる上演会場はやや残念に感じた。

このページのQRコードです。

拡大