公演情報
「私を探さないで」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★★
いままで何度も騙された岩松了作品である。タイトルで「わたしを探さないで」なんで宣戦布告されるとますます観客は作者の術中にはまってしまう。わたしって、だれ?
舞台は瀬戸なお海岸にある、小さな映画館が中心になるような小さな街。そこで高校まで育った男女4人とかつてはそこで国語の教師を務めいまは作家(小泉今日子)が再会する。そのきっかけは主人公(勝地涼)が結婚する事になり実家に報告すべく帰郷したからだ。
だが、卒業後十年近くたちそれぞれの環境も変わっている。主人公は、かつて、気になっていた少女がいたのだが、彼女は突然失踪してしまっていた。今回の帰郷で彼女(河合優美)のその後を確かめたい。街で見掛けたような気がしているが、誰に問いただすせる訳にもいかない。
小さな瀬戸内海の小さな町という環境の中で、十年前の青春前期と、現在の青春後期の間にそれぞれに出会い経験したドラマがじわじわ解っていく展開が、謎めいた青春物になっている。誰にもある秘められた、しかし明かされたくない物語は岩松了の本領発揮の世界で、(結構飽きる部分もあるのだが)、観客はその世界に吸い込まれていく。暑い日が多くて閉校した今年は、初めての十月末の突然寒い日だったが、本多劇場満席である。観客は三,四十才代の女性が軸だが、幅広い。2時間。休憩なし。
河合優美も小泉今日子も出ている場面は少ないが、勝地涼の視点の中に点在して、物語を引っ張っていく。例によって物語の回収の手順で見せていく所もあり、戯曲を読めば巧みに回収されているに違いないが、見ているうちに忘れてしまうところもある。肝心の少女の失踪の真実もその一つだが、それが青春というものと、作者が言っているようにも思える。かつて、映画館がはねるときに待ち伏せをした話とか、同窓生のかつての教師を囲む朗読会とか、生徒と教師がお互いに握っている青春期の個人のささやかな秘密とか、見ている方が辻褄合うように記憶していないことがこのドラマの主題なのかもしれない。
いずれ戯曲で確かめてみればいい話であるが、そういう芝居を岩松了はずっと書いてきた。まぁチェホフもそうだと言われればそうかもしれないし、演劇の面白さだとも言えるかもしれない。