満足度★★★★
やなぎみわ「ゼロ・アワー」観ました
アート作家として知られるやなぎみわが、どんな舞台をつくるか、まずはやはりそこに注目が。
「そこにいない相手との対話」
物語も演出も、それに尽きる。
メディア、声、手紙、ひとり芝居…さまざまな場面で感覚、想像力を刺激。
声を聞かせる作りがいい(特に、いちばん最初が一番ワクワク)。
ラジオとイヤホンは、終盤の五人の声をじっくり聞く場面でしか効果的でなかった気が。
(私は片耳が聞こえないので、舞台の声を聞くため外した状態で、時々「ここだ!」と思った場面でイヤホンをつけていました)
案内嬢と東京ローズのコピペ性を重ねた衣装や、白基調の美術は美しいが、「案内嬢シリーズ等の作家・やなぎみわ」の予備知識がないと?か
(これを観に来る人は大抵分かってるのかもしれないけど、あいちトリエンナーレは、ふだんアートに興味ない人も来るので)。
聴覚としての存在「東京ローズ」 案内嬢の制服が、視覚としての存在か…(役者・役柄はそれぞれ別人として立ってたし)
あと、ブースの向こう側には、もっと別規範の世界性が欲しかった。
物語自体は、とくにひっくり返る展開もなくゆったりと終わる。 (劇中で謎を追う人物は、結局真相に迫れない)
チラシなどで提示された「6人目の正体」の謎も、特に謎でなくドキュメンタリー的に取り扱われているので、観客としてはすべてを俯瞰している気分で、それほど揺さぶられない。
燐光群を彷彿とさせる、オーソドックスな社会派舞台という印象でした。
満足度★★★★
アイデアが素晴らしい
史実を元ネタにしつつ、想像力によって作り上げたフィクションのアイデアが、圧倒的に面白かった。
ただ、芝居としては、演出なども、それほど面白いとは思わなかった。
(後日、追記するかも、、、)
満足度★★★★
戦争と音声メディア
第2次世界大戦中に日本から連合国軍兵に向けて放送されたラジオ番組『ゼロ・アワー』に纏わるエピソードをフィクションを交えつつ人工的でクールな質感で描き、戦争モノにありがちな悲しみや嘆きとは異なる、単純に割り切れない不思議な感情を抱かせる作品でした。
アメリカ兵達に人気のあった日系アメリカ人の女性アナウンサー「東京ローズ」の5人の内の1人がアメリカの記者につけ込まれて、アメリカに戻るものの国家反逆罪を宣告される物語と、謎の6人目の東京ローズを探す物語が、戦中/終戦直後/現代を前後しながら描かれていて、そこに波やチェスといったモチーフが重ね合わされて、重層的な拡がりが感じられました。NHKラジオの前身にまつわる話をNHK横浜放送と同じ建物に入っているKAATで上演するということも興味深かったです。
真っ白な床と壁からなる空間の中央に、タイトルの「ゼロ」にちなんだドーナツ型のカウンターが設置されていて、話の展開に連れて5分割されて様々な配置で用いられるのが美しかったです。特に弧を互い違いの向きにして接続して波の形にして、ラジオの電波と海の波を象徴していたのが素晴らしかったです。
ラジオ放送で流されている設定の音声を、実際に事前に配布されたポケットラジオを通じて聞く趣向は興味深かったものの、もう少しその仕掛けを大胆に使えそうな気がしました。
音響と照明はKAATのスタッフが担当していて、劇場の機能をフル活用して非常に凝ったことをしていながらも、目立ち過ぎることもなくて、素晴らしかったです。
劇中のアナウンサーが着ている白と青のオリジナルの制服を、受付や案内のスタッフも着ていて、口調もデパートの案内嬢の様で、開演前からやなぎみわさん世界観を徹底していたのが印象的でした。
音声デザインを担当したフォルマント兄弟が当日パンフレットに書いた文章は、架空の技術や風習をあたかも実在するように説明する、「兄」の三輪眞弘さんならではの文章で面白かったのですが、6人目の東京ローズの正体を書いてしまっているので、そこは配慮して欲しかったです。