グッバイ、レーニン! 公演情報 グッバイ、レーニン!」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-1件 / 1件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/04/07 (月) 13:00

    座席1階K列20番

    価格12,000円

     「グッバイ、レーニン!」とは、何とまあ、挑戦的なタイトルだろうか。現代日本においては何の問題もなく通るだろうが、未だ旧ソ連の影響色濃い国では上演禁止運動くらいは起きかねないと思う。
     しかし、上演すること自体には問題なくても、これを日本で大ウケさせるには相当苦労することが、予想される。何となれば、東西ドイツ分断と統一、その過程におけるトラブルを描いたこの喜劇、あのベルリンの壁崩壊から36年を経て、歴史がすっかり風化した現在では、何がどう笑えるのか、ピンと来ない人々も少なくないと思われるからだ。
     これ、冗談で言ってるわけじゃないからね。学校でドイツの歴史くらいは習ってるじゃん、と言われそうだけれど、実際、観劇後、退場していく20代と思しい若い人たちが口々に「よく分かんない」「レーニンって誰?」って漏らしてたから。
     彼らにとってはドイツ統一がどんなに世界的な大事件だったかもまるでポカーンだし、舞台の背景でレーニンが大写しになっても、それが誰なのかハテナってのが大半なのである。せめて原作映画が公開された2003年直後に舞台化されてたらねえ。

     若者の常識知らずに憤慨したって仕方がない。わが国の歴史だって、太平洋戦争で日本がどこの国と戦ってたか知らない、なんて若者が普通にいるのである。時代の変遷、歴史の風化ってのはそういうものだ。

     若者には内容が難しいなら、前提となる歴史を噛み砕いて説明するオリジナルなシークエンスくらいは付け足したってよかったのに、というご意見もあるだろう。しかし今回の演出では、そういう「親切」を今一切行われなかった。
     そりゃそうだろうねえ、「常識知らず」は観客の問題であって、舞台の作者に責任のあることではない。初めから観客には理解が足りないだろうと決めつけて優しい配慮を施すってのは「余計なお世話」というものだ。
     そもそも戦後の東西ドイツの問題について何の知識もないのにどうしてこの芝居を観に来ようと思ったのかって話なので。

     結局、お客さんの大半は、「生の相葉雅紀くんを観たい」程度の関心に過ぎなかったんだろう。それで舞台がつまらないと感じたなら、それはそれで仕方のないことだ。自分には「合わない」芝居を観ちゃったんだと諦めるしかないことだよね。

     勘違いしてもらっては困るが、『グッバイ、レーニン!』の物語自体は文句無しの傑作である。シリアスな政治ドラマとおバカなスラップスティック・コメディが見事に融合し、笑って泣ける悲喜劇としての完成度は極めて高い。オリジナルの映画がドイツで大ヒットを飛ばしたというのも納得できることである。
     舞台化に当たって多少の瑕瑾は生じていると思うが、見る価値のない舞台だなどとは絶対に言えない。普通に常識のある方は、ぜひオリジナルの映画版をご覧になっていただきたいと思う。

    ネタバレBOX

     『グッバイ、レーニン!』の何が面白いのか。
     まず、社会主義国家である東ドイツと、自由主義国家である西ドイツ、両者が統一されたと言っても、東が西に統合されたのがドイツ統一なのであって、もしもそれが全く逆で「西が東に吸収されて社会主義国家になってしまったら」という架空歴史の嘘、この面白さがある。
     SFファンなら全国ご承知、『高い城の男』やら『連合艦隊ついに勝つ』等々、1ジャンルを築いているパラレルワールド=ウソ歴史コメディだね。もしも歴史が別の方向に転んでいたら、という発想には、歴史の「過ち」を修正したいという読者や観客の願望を叶えてくれるカタルシスが含まれている。『機動戦士ガンダム ジークアクス』もそう。連邦軍じゃなくてジオン軍が勝った歴史、なんてまんま『グッバイ、レーニン』だ。

     さらにそのウソを、ガッチガチの社会主義者である主人公の母親に信じさせようとする主人公たちの奮闘が物語の主軸となっている。
     これまた喜劇の王道、ニセモノをホンモノと見せかけて騙す詐欺師もののパターンの変形だ。でも今回はそれが「社会そのもの」の変革を誤魔化すという、壮大なウソで押し通そうというのだから、相葉くんの苦労のほどたるや(笑)。
     これ、日本を舞台に翻案出来ないものかな、ってちょっと考えたんだけど、日本がいきなり社会主義国家になりましたって言っても、信憑性、説得力がないからね。『愛国戦隊大日本』みたいに徹頭徹尾おふざけでやるしかない。『グッバイ、レーニン!』の母親みたいに、しみじみと涙をそそる結末には至りそうにないのよ。

     西側陣営の象徴とも言えるコカ・コーラを目にした母親がショックを受けると、慌てた相葉くんがコカ・コーラ社がドイツの国営企業になったんだとありえないウソをつくのなんて、大爆笑だったんだけど、会場ではあまり笑いが起きてなかったね。
     若い人にはどんだけおかしいかも分からないのだった。

     不満と言えば、まあ、キャストが全員ドイツ人には見えないってことだけれど、これはまあしょうがない。ただ改善点はいくらでもあって、例えば、息子役の相葉くんと、母親役の堀内敬子さん、年齢差が11歳しかないのね。実際、堀内さん、相葉くんの母親にしては若過ぎる印象で、これはキャストをもう少し歳上の方にして欲しいところだった。
     全員日本人の中で、トリンドル玲奈だけが外国人顔であるのもかえって違和感がある。いくら演劇が「見立て」で成り立っているとは言っても、人種をごたまぜされるとやはりどうしてもどこの国の話やねん、という印象を持たざるを得ない。次回、再演があるなら、全員外国人キャストで演ってくれないものだろうか。

     今どきの観客に内容が伝わりにくいというネックはあるけれど、これは定期的に公演を繰り返して欲しい秀逸な舞台である。キャストが変われば、新たな魅力も生まれることだろう。パルコには一考を望みたいが、若い人の反応が鈍いと難しいかなあ。CoRichでの感想も全然だしね。

    ●パルコ・プロデュース2025『グッバイ、レーニン!』
    https://stage.parco.jp/program/goodbye-lenin

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