へカベ、海を渡る 公演情報 へカベ、海を渡る」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    まずビフォアトークという作家(田中孝弥〈あつや〉氏)が作品の解説をする前説がある。これが超面白い。関西弁で古代ギリシア演劇を好き放題ぶった斬る。これ相当面白そうだなと期待はMAX。生ピアノ(仙波宏文氏)の伴奏なんか贅沢に散らして。役者の質も高い。いろんな表情のお面がそこら中にばら撒かれた八百屋舞台。さあ何を見せるのか?

    紀元前13世紀に起こったとされるトロイア戦争。アカイア人(古代ギリシア人)によって古代都市イーリオスは滅ぼされた。古代ギリシアのエウリピデスが紀元前424年頃に発表した『ヘカベ』。彼女は滅ぼされたトロイア(現在のトルコ)の最後の王妃。男は皆殺され、女は皆奴隷に。唯一生き残った息子・ポリュドロスは信頼できるトラキア(現在はギリシャ、ブルガリア、トルコに分割されている)の領主に預けて逃がした。だが息子の持つ黄金欲しさに目が眩んだ領主は裏切って殺してしまう。更にこの戦争で亡くなったギリシアの英雄アキレウスの亡霊が生贄を要求。ヘカベの娘、ポリュクセネが捧げられることに。最後に残った二人の子供でさえこの世で生きさせてあげられなかった。全てを呪い全てを憎みこの世の全てに絶望した女。

    ヘカベ(日永貴子さん)、ポリュドロス(泉希衣子さん)、ポリュクセネ(趙清香〈チョウ・チョンヒャン〉さん)、ヘカベに仕える侍女(八田麻住さん)。オリジナル・キャラクターである飯炊き女(峯素子さん)、伝令(森島隆博氏)、トラキア領主(辻登志夫氏)、ギリシア軍の総大将アガメムノン(髙口真吾氏)。

    ラストはアガメムノンに短刀を突き刺すヘカベで終わる。

    余りにもトークが面白かったので流れをぶった斬って作品内に度々登場させてみても面白かった。難解な世界に解説を入れていく作家が段々と物語の中に取り込まれていくような。

    ネタバレBOX

    歌も細かいギャグもテンポもいい。コロスも仮面も効いている。それだけに関西弁で古代ギリシアの戯曲を演るだけでは物足りなさが残る。自分も体調のせいか集中力を度々欠いてぼんやりしてしまった。

    フェデリコ・フェリーニの『サテリコン』という映画がある。紀元前1世紀頃にペトロニウスによって書かれたとされる『サテュリコン』が原作。だが原作は散逸しその壮大な物語の断片しか残されていない。この映画の凄まじいところはその断片だけを繋げたところ。勿論訳が分からない。だが訳が分かるように解釈を加えていないところが作品の素晴らしさに変わる。何か壮大な大河小説の途中数ページだけを読んだような不思議な感覚。未だにあれは何だったんだ?と思うことがある。古代の物語はその訳の分からなさこそが面白さの本質である。

    復讐の連鎖を断ち切る方法論を提示するのかと期待したが、やはり昔も今も人間のやることは何ら変わらないという無常観のみ。ただ生き物は憎しみを恨みを晴らすだけ、他に選択の余地などない。地獄行きの冥府魔道をただ黙々と無表情で行進する。本当にそれだけなのか?

    次回、東京で公演を打つならまた観てみたいと思う。イスラエルが最終戦争を覚悟している今、ヘカベの叫びに力がないと。「ああ、無力な存在の不幸な嘆きね」で終わらせてる場合ではない。

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