実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/05/25 (土) 13:00
価格5,500円
昨年は関西公演がなかったカトケンさん、今回はいつもやってくれてる京都府立府民ホール アルティが耐震工事などで閉館中のため、神戸での公演のみ。
今回の作品はイタリアの劇作家カルロ・ゴルドーニ(Carlo Osvaldo Goldoni)が1745年に書いたコメディ。カルロ・ゴルドーニは1707年に当時のヴェネツィア共和国(Repubblica di Venezia)で医師の子として生また。この時代のイタリアは統一前でヴェネツィア共和国の他、サルデーニャ王国やジェノヴァ共和国、パルマ公国、トスカーナ大公国、ナポリ=シチリア王国などの都市国家で構成されていた。今回の話に登場するトリノ(Torino)はサルデーニャ王国(Regno di Sardegna)の首都だった。
ゴルドーニはパドヴァ(Padova)大学で法律を修め、転じてパヴィア(Pavia)大学を卒業し、その後弁護士として北イタリアの各地を遍歴する傍ら劇作に手を染めた。1748年には弁護士を廃業し、座付き作者として矢継早に斬新な喜劇を世に送り、演劇の改革時代を招来した。
しかし、1753年以降、新しい時代の変革を反映した彼の作品を喜ばない観客に加えて、保守的な劇作家の誹謗、攻撃の的となり、失意のうちに渡仏。1764年、ルイ15世の招請を受け、ベルサイユ宮で王女たちのイタリア語教育に当たったが、フランス革命を迎えてパリに退き、1793年2月にパリで他界した。
主な作品は今回上演の作品の他、「コーヒー店(La bottega del caffe)(1750年)」、「宿屋の女主人(La locandiera)(1753年)」、「キオッジャ騒動(Le baruffe chiozzotte)(1762年)」など。
今回の「二人の主人を一度に持つと」はヴェネツィアを舞台にして、同時に二人の主人に仕えることで、二人分の給料をせしめようとたくらむ男を主人公に繰り広げられるドタバタコメディ。1946年にヴェネツィアで初演され、ミラノピッコロ座(Piccolo Teatro di Milano)の看板演目としても知られる。
今回の上演では主人公の召使の名はトゥルッファルディーノだが、ミラノピッコロ座の公演ではアルレッキーノとなっており、「アルレッキーノ――二人の主人を一度にもつと」と云う邦題で、日本公演も行われたことがある(2009年、世田谷パブリックシアター)。
また、1971年に設立されたオペラ・カンパニー、オペラシアターこんにゃく座もオペラ「アルレッキーノ ―二人の主人を一度に持つと―」として2013年(世田谷パブリックシアター)、2021年(多摩市民館)に公演している。
今回の加藤健一事務所公演は117回目。下北沢の本多劇場の11日間の公演に続いてこの神戸公演が行われた。
主人公のトゥルッファルディーノを演じるのが劇団主宰の加藤健一。以前からの繰り返しになるが、カトケンこと加藤健一は1949年10月静岡県磐田市生まれ。1968年、袋井商業高校卒業後、半年間のサラリーマン生活を経て劇団俳優小劇場の養成所に入所。1970年に養成所を卒業後、つかこうへい事務所の作品に多数客演し、10年後の1980年に加藤健一事務所を創立。
この間、2004年には読売演劇大賞優秀男優賞を受賞、2007年には紫綬褒章を受章、その他にも菊田一夫演劇賞など多くの賞を受けている。毎年3、4本の公演を行っているため、映画やテレビドラマへの出演は限られているが、2016年の吉永小百合と二宮和也の主演した山田洋次監督作品の「母と暮せば」では福原母子の家に出入りする上海のおじさんを演じ、毎日映画コンクール・男優助演賞を受賞している。
トリノからやって来たトゥルッファルディーノの一人目の主人になるベアトリーチェを演じるのは加藤健一事務所俳優教室出身で加藤健一事務所公演ではお馴染みの加藤忍。1973年10月生まれで、神奈川県出身。彼女もテレビドラマや映画にも出ておられ、吹き替えの声優もされている。今回は男装でかっこいい。
もう一人の主人となる、ベアトリーチェの恋人のフロリンドを演じるのは坂本岳大。劇団昴出身。舞台を中心に活動する。シェイクスピア作品などの古典劇から現代劇・ミュージカル、文学館・美術館等の朗読公演まで幅広く演じる。1975年5月生まれで、東京都出身。加藤健一事務所は「あとにさきだつうたかたの(2014年)」や「ペリクリーズ(2015年)」にも参加。
ベアトリーチェの兄の婚約者だったクラリーチェは増田あかね。劇団俳優座27期生。1990年12月生れで、東京都出身。その恋人のシルヴィオを小川蓮。劇団扉座準座員。1996年生れで東京都出身。シルヴィオの父のドットーレは奥村洋治。劇団ワンツーワークス所属。1957年生れ、熊本県出身。
クラリーチェの父のパンタローネは清水明彦。文学座所属。1962年生れで千葉県出身。NHK大河ドラマの「翔ぶが如く(1990年)」や「武蔵 MUSASHI(2003年)」、吉永小百合・天海祐希主演の映画「最高の人生の見つけ方(2019年)」にも出演している。
クラリーチェの女中ズメラルディーナは江原由夏。劇団扉座所属。1985年生れで、千葉県出身。2014年のTBS系の観月ありさ主演の連ドラ「夜のせんせい」に出演している。
宿屋の主人ブリゲッラは土屋良太。ノックアウト所属。1967年まれで、新潟県出身。2019年に23年連れ添った女優の 渡辺えりと離婚した。2016年公開の長谷川博己主演「シン・ゴジラ」に出演している。宿屋のボーイは佐野匡俊。劇団菊地所属。静岡県出身。
演出の鵜山仁は1953年3月奈良県大和高田市生まれで、奈良女子大学文学部附属高等学校、慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。文学座に所属し、劇団の内外で精力的に活動を続け、多くの賞を受賞している。2007年から2010年までは、新国立劇場の演劇部門の第4代芸術監督を務めた。現在は日本演出者協会理事。舞台芸術学院学長。
上演時間は前半が1時間35分で、15分休憩の後、後半40分の合計2時間半。今回の作品は完全にコメディーで、最初から最後まで笑わせてくれる。もちろん主役のトゥルッファルディーノの出番が多いのだが、それ以外の人物も結構出番が多く、トゥルッファルディーノがいない場面も結構あった。しかし、トゥルッファルディーノの口から出まかせは、困ったもんだ。
京都公演ではアフタートークが恒例だったのだが、京都は特別なのね。最初に書いたように京都公演の会場になっているアルティの工事が今年(2024年)8月に終わる予定なので、次回は京都公演が復活すると信じたい。いつやろか~
以上
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/10 (金) 14:00
座席1階
18世紀半ばに書かれたイタリアの喜劇という。カトケン事務所でイタリアというのは珍しいが、笑いのポイントはいつもにましてたくさんあった。脚本や演出の良さであったのかも。
聖書には、二人の主人に仕えることはできないという教えがあるそうだ。要するに欲張るなという教えだと思うが、二人に使えればお給金は2倍だ。
主人公の召使(加藤健一)は仕事中に召使を探しているという話を聞いて飛びついたが、物語が進むとその2人のご主人らが交錯し、知恵を巡らせて切り抜けようとする中でのドタバタが繰り広げられる。
加藤忍らいつもの顔触れに加え、ワンツーワークスの奥村洋司などが加わった座組が興味深い。また、扉座出身で加藤健一事務所に衣装担当として加わったという江原由夏が、コメディ初挑戦ながら重要な役どころで舞台を駆け回る。なかなかの切れ味だ。
休憩15分を挟んで2時間半のボリュームだが、終幕後の拍手は力強かった。誰が抜きん出ていたというよりも、うまく組み立てられた座組の総力で客席を満足させたのだと思う。