演劇

演劇実験室∴紅王国 第拾参召喚式

神は何処におわすや? 神は何を望みしや? 我が魂は何処にありしや? 「ぱらいそ」か? 「いんへるの」か? それとも「靖国」か……?

演劇

演劇実験室∴紅王国 第拾参召喚式

破提宇子

神は何処におわすや? 神は何を望みしや? 我が魂は何処にありしや? 「ぱらいそ」か? 「いんへるの」か? それとも「靖国」か……?

実演鑑賞

演劇実験室∴紅王国

ウッディシアター中目黒(東京都)

2015/10/28 (水) ~ 2015/11/03 (火) 公演終了

上演時間:

公式サイト: http://www5e.biglobe.ne.jp/~kurenai-/

※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。
 時に1940年、昭和15年の日本は、神武天皇が即位し大和朝廷を開いてから
2600年と言う事で、「皇紀紀元二千六百年」の国威発揚が高まっていた時代で
あった。前年にはノモンハン事件で夥しい戦死者を出し、「靖国の母」という
言葉が流行語ともなっていた時代であった。日本はドイツ、イタリアと...

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公演詳細

期間 2015/10/28 (水) ~ 2015/11/03 (火)
劇場 ウッディシアター中目黒
出演 阿野伸八、恩田眞美、松永太樹、野口清和、野上文、藤井佳代子(青年座)、松岡規子、尾山道郎、坂元郁子、原佳代子、山本隆世(1980)、円谷奈々子、中村真衣、樽本綾子、佐藤駿平、他
脚本 野中友博
演出 野中友博
料金(1枚あたり) 4,000円 ~ 4,500円
【発売日】2015/09/06
前売り 4,000円 
当日 4,500円
公式/劇場サイト

http://www5e.biglobe.ne.jp/~kurenai-/

※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。
タイムテーブル 10月28日(水) 19:00
10月29日(木) 19:00
10月30日(金) 19:00
10月31日(土) 14:00/19:00
11月1日(日) 14:00/19:00
11月2日(月) 19:00
11月3日(火) 14:00
説明  時に1940年、昭和15年の日本は、神武天皇が即位し大和朝廷を開いてから
2600年と言う事で、「皇紀紀元二千六百年」の国威発揚が高まっていた時代で
あった。前年にはノモンハン事件で夥しい戦死者を出し、「靖国の母」という
言葉が流行語ともなっていた時代であった。日本はドイツ、イタリアと日独伊
三国同盟を結び、世界戦争への危機は高まっていた。植民地化にあった朝鮮民
族の人々に、創氏改名として日本名が強制される、そんな時代であった。

 日本の何所か……山と森に隔てられた寒村、戸来村は古くからの潜伏キリシ
タンの信仰を守る、言わば隠れ切支丹の里であった。その小さな村に、「靖国
の母」の一人である靖国奉賛会の使者が訪れた。次の靖国神社の例大祭に、村
の戦死者遺族を招く為に、そして、翌月に皇居前広場で行われる紀元二千六百
年記念式典に招く為に……だが、彼女に伴ってやって来たのはその身分を隠し
た特別高等警察の刑事達であった。首を捻られて殺害された村でただ一人の医
師の事件、そして村人達の愛国心、忠誠心を見極める為に……

 そして、戸来村、御嶽本家の当主、御嶽佐兵衛にはもう一つの心痛があっ
た。息子や孫、全ての跡取りとなる男子を戦争で失い、ただ一人残った孫娘の
璃辺華(りべか)には、得体の知れぬ霊が取り憑き、不可思議な言動を繰り返
していたのだ。そして殺害された医師は、孫娘の部屋から、硝子窓を突き破っ
て投げ捨てられていたのだ。

 フィールドワークにやって来た民俗学の女学者と精神分析医、何処から来た
とも思われぬ歩き巫女や帽子の浮浪者……ひっそりと隠れていた村に、多くの
人々が集まる中、一つの報せが告げられた。身寄りが無く、本家から出征して
ノモンハンで戦死したはずの男が、村に帰って来たと……その時、一年前から
壊れて動かなかった本家の……村でただ一つの柱時計が時を告げ始めた……!

 医師殺しの犯人は誰か? 本家の孫娘に取り憑いたのはいかなる霊か? 村
から出征し、独り残らず戦死してしまった若者達の魂は何処にあるのか……?
 「ぱらいそ」か、「いんへるの」か、それとも、「靖国」か……?




信じる自由と信じない自由


 『破提宇子(はだいうす)』はハビアンというキリシタン名、あるいは不干
斎巴鼻庵という号のみが伝わる転びイルマン(修道士)の書いた廃耶書、即ち
徳川幕藩体制下では御禁制とされたキリシタン信仰を批判する文書の題名であ
る。このハビアンという人物、元々禅僧であったが受洗してイエズス会に加入
し、『妙貞問答』等のキリシタン擁護の著述を著しているが、後に修道女と駆
け落ちして棄教し、キリスト教を迫害する側に回ったという数奇な人生を生き
ている。

 私はこれまで演劇実験室∴紅王国の作品として、隠れ切支丹、あるいは近現
代のキリスト教や聖書に由来する劇を数多く書き、上演してきた。旗揚げ作品
となったテアトロ新人戯曲賞の受賞作でもある『化蝶譚』は青木ヶ原樹海の深
奥に迷い込んだ人々が、隠れ切支丹信仰を守る蝶の姉妹と出会う物語であっ
た。吸血鬼をエイズ、即ちHIVのメタファーとして描いた『不死病』の舞台
は、敗戦後間もない隠れ切支丹の里、戸来村だった。今回の作品、『破提宇
子』は、『化蝶譚』の時代(一九四〇年)に、『不死病』の舞台となった戸来
村という隠れ切支丹の里で何があったのか……という事を出発点としている。
とはいえ、『破提宇子』はそれ自体独立した物語なので、前掲二作の続編でも
前日譚でもない。

 一九四〇年、即ち昭和十五年という年は、第一には日独伊三国同盟の結ばれ
た年として記憶されているだろう。前年にはノモンハン事件で日本軍は多くの
戦死者を出し、「靖国の母」という言葉が流行語の一つとなる時代だった。そ
して、神武天皇の即位より二千六百年と言う事で、皇紀紀元二千六百年式典な
どが行われ、国威発揚が行われていた。また、創氏改名という法が施行され、
当時は我が国の植民地であった朝鮮民族の人々に日本名が強制されたりもして
いた。一般には知られない事だが、この年には皇紀二千六百年奉祝全国基督教
信徒大会という物が、二万人もの人を集めて青山学院で行われている。

 私は時に、排斥されるマイノリティーの象徴として隠れ切支丹を取り上げ、
また時には人々の自由を縛る迷妄としてキリスト教原理主義を描いた事もあ
る。まるでハビアンのようでは無いかと言われそうだが、今回はこれまでの作
品と決定的に違う事が一つある。それは当の私自身が洗礼を授かってキリスト
者となっている事だ。二〇一二年、父の死を看取った私は教会に通うようにな
り、翌年のイースターに受洗した。それから間もなく、母を亡くし、妻の他に
家族と呼べる者はいなくなってしまった。そしてその年の末、安倍晋三は靖国
神社に参拝した。信仰を持つ身となってから、靖国は戦前の国家神道の悪夢を
蘇らせる恐怖の対象となった。『破提宇子』という題名は、キリストを救世主
として受け入れ、それを魂の自由としている人々にとっての恐怖の対象とし
て、作品題を『ドラキュラ』とか『ゴジラ』と付けるような物だった。

 だが、構想を続けるうちに、私は一つの葛藤を抱える事になった。それはキ
リスト者であるという今の自分の立ち位置を俯瞰し、更に跳び越えた位置に立
たなければ、人間の魂の自由その物に迫る事は出来ないという作劇上の超課題
であった。そう、受洗した今となっても、私の心の中には、主なる神への賛美
と、『神』という権威に抗おうとする相反する声があるのである。ある日の礼
拝後、私は牧師先生にこう質問した。「主は何故人間に自由意志をお与えにな
ったのですか?」と……そして第一稿の脱稿を果たした後、「教会から破門さ
れる事を覚悟で書きました」と申し上げた。

 靖国神社に対する批判的な要素を含むこの劇は、ある種の方々にとってはた
まらなく不愉快な物だろう。だが、過去の植民地下にあった韓国、台湾などの
日本軍軍属の御遺族達は、靖国からの合祀取り下げを切に願っているし、日本
人の中にも仏徒であるから、キリスト者であるからという理由で合祀取り下げ
を願う遺族は少なくない。そして集団的自衛権の行使、安保法案の施行に伴っ
て自衛官に戦死者が出て、それが靖国に祀られるとなったら、国家神道が仏教
やキリスト教などを超越した超宗教として君臨するという悪夢はまさしく現実
の物となるだろう。

 私は私自身がクリスチャンになったからと云って、劇団員に「キリストを受
け入れて福音を信じなさい」等とはただの一言も云った事がない。妻にすら、
「教会の礼拝に出席して欲しい」と云った事は無い。私に信じる自由があるよ
うに、誰にだって信じない自由はあると思うからだ。キリスト者には、南無阿
弥陀仏を唱えて阿弥陀如来に帰依する事をしない自由があるし、仏弟子にはナ
ザレのイエスを救世主として受け入れる事をしないで良い自由があるだろう。
同様に「靖国の英霊への敬意」という物を信じない自由があってしかるべきだ
と私は思う。信じない自由が無ければ信じる自由もまたあるまいと思う。

 それが劇団員達に「刺されたらどうするんですか?」と心配されるようなこ
の劇を書き、上演する理由である。ジャン・ポール・サルトルは云った。

「人間は生まれながらに自由の刑に処せられている」



紅王∴野中友博
その他注意事項 駐車施設・託児施設はございません。
スタッフ 美術/丸山賢一 照明/中川隆一 音楽/寺田英一 音響/青木タクヘイ 衣装/兼松光 舞台監督/川田康二 制作/高橋ゆうき

[情報提供] 2015/08/05 23:48 by ダイジュ

[最終更新] 2016/01/06 22:41 by シュンペイ

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