「谷間の女たち」~ 河よ、伝えておくれ、物語を~ 公演情報 「谷間の女たち」~ 河よ、伝えておくれ、物語を~ 」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★★

    安定した演技力!
    1973年、軍部がクーデターを起こして軍事独裁政権下となりました。その後チリが民主主義を取り戻すまでの17年間、軍部の独裁政治に反対した民衆はことごとく、拉致、監禁、逮捕され拷問を受けた挙句、殺害されたのでした。この物語は残された女たちが命懸けで立ち上がり、「男たちを帰せ!」と切実に訴えた姿を描いたものです。

    以下はネタバレBOXに。。

    ネタバレBOX

    とにかく、ひじょうに素晴らしいです!

    全ての出演者の演技力は勿論のこと、女たちが撃たれるシーンの照明、形、情景、その場面は一枚の画にすっぽり入ってウフィッツ美術館あたりに展示されてるかのごとく美しい絵になります。

    きっと、すべての細部に渡って計算された場面なのでしょう。


    さてさて、この「双ノ会」、毎回のことですが、ワタクシの中では沢山の観劇数の中でも5本の指にきっちり入っている劇団なのです。

    一人一人の演技に一分の落ち度もなく完璧に観せる、という意味に於いてひじょうに高い評価をしております。

    それは・・・東京には本当に沢山の劇団がありますが、それなりに有名でも毎回の作品が、いつもいつも、これだけの実力を持って安定した演技をみせる。というのがとても難しい事だと理解しているからです。



    さて、本題です。

    ある日の事、拉致された男たちを待っていた女たちの下に一体の死体が川から流されて浮いているのを見つけてしまいます。
    フェンテス家と村の女たちは大騒ぎになり、その死体を墓に埋めようとしますが、軍隊の追及により没収され焼かれてしまいました。

    その死体の処理の仕方をめぐって、軍隊の隊長は副官のなかば強制的な態度に疑問を感じて、村の女たちの感情を逆撫でしないように人情的な配慮をしますが、かえって住民達の側に立って配慮した事がきっかけで軍隊の統制が乱れてしまいます。

    そんな隊長を見かねた反対派の副官は「住民は権力でもって押さえつけておかないと、どんどん図に乗って押さえつけられなくなってしまう。いいのですか?そんな事になったら隊長、貴方の立場も悪くなるし、村を統制できないという事実も公表されてしまうのですよ。」という言葉によって気持ちがぶれてしまいますが、それをあおるように村の女たちが結束して立ち上がります。

    そこへこの地を牛耳っているカストリア家の一言で、軍隊の隊長の意思は固まり、真っ向から軍隊と村の女たちは対立する事になってしまいます。

    村の女たちは隊長の「大人しく家に帰ってくれ!」との説得の言葉にも耳をかさなくなってしまった経緯から隊長の心理状態はどんどん変化していきます。

    この時、カストリア家の正義、軍隊の正義、村の女たちの正義がぶつかります。

    ここでの正義とは・・・その立場の人達が考える正義であって、見方によってはどの正義も正しいのだと言う事が分かります。


    やがて女たちは命を懸けて軍に抗議しますが、しめしのつかない軍は女たちを殺害してしまいます。


    この物語のみどころは、隊長(高橋耕次郎)の住民側にたった考えから、どんどん感情が変化していくさまです。人間の底の部分にひっそりと流れている優しさや悲しみ、哀れといった感情を押し殺して役職の為に鬼になろうともがく苦しみです。


    戦争が続く限り未来は犠牲にされるのは常ですが、こうやってチリの女たちは戦ってきたのですね。現在の幸せの為に。

    人が人と共に生きる限り、どこかでせめぎあい、どこかで摩擦を起こしどこかに歪みが生じる。


    人間とは実に愚かな生き物なのです。


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