ザ・空気 公演情報 ザ・空気」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/01/15 (日)

     『ザ・空気』は、今の社会が抱える問題に直球で永井愛氏が挑んだ作品と言えるだろう。抵抗の表現として本当に素晴らしいと思う。私は、作品が作者のメッセージになることに戸惑いがあるけれど、今の日本のメディア状況は、そんな悠長なことを言っていられる段階にないと思う。また、ギリギリのところで、一義的メッセージではない演劇的ドラマツルギーが成立していたとも思う。前半部では、今のメディア状況を述べるために、説明的な部分も目立ったけれど、1時間45分くらいの長さで、今のメディア状況の問題をここまで的確に濃縮できるというのはすごい。
     作品自体に不満はないけれど、個人的には「空気」というと、上からの圧力というより、何の圧力もかかっていないのに同調して、それがSNSなどの熱狂と相まって形成される流れや、政治の話題を気軽に出してはいけない雰囲気の読み合いなどの方に関心がある。ファシズムはこちらから生まれると思っているから。『ザ・空気』の主題はメディア批判の文脈では割と言葉になっていることなので、未だ言葉になっていないものに戯曲が言葉を与えてほしかったという意味でも。とはいえ、それは高望みで、充分に素晴らしい作品でした。
     フリーである私には、本当の意味での組織の苦悩は体験としてはないのだけれど、メディアに関係する身としては他人事ではなく切実に響くものがあった。なにより、よ~く聞いたり、読んだりする話だから。「そうだよね」「そうなるよね」って。自主規制に関しては、フリーでも、自主制作で作る場合でも、結局あるものだから。
     メディアに関わってない人には「うそ~」ってことも多いのだと思うので、ぜひ多くの人に観ていただきたい。これが現実ですよ、フィクションというより、ドキュメントというか。
     【追記】
     この物語のようなことは、あらゆる表現の世界にあること。そういう意味では普遍性がある。ただ、もう一方で、普遍的でありながら、例外的でもあるということは押さえておく必要がある。
     政権批判的な表現が上からの圧力によって潰されるような事態は今でも厳然とある。ただ、例外的だ。というのは、この演劇でも描かれている通り、自身の立場、ひいては生活のために、自己保身に回る。自主規制する。自分が実害を受けてまで抵抗する人は少ない。いや、保身のためにやりたいこともできず、言いたいことも言えないという状況はまだマシだ。むしろ、「政治的問題なんて本当にどうでもいい」と思っている表現者、報道関係者さえもごまんといて、むしろそっちの方が大多数であるということ。それこそが最大の問題とも言える。
     作品は現実の一部を切り取って世界として提示するものなので、少ない抵抗の現場を作品化することに何の批判もない。ただ、これがやはり普遍的力学でありながら、事象としては例外的であるということは、観客は踏まえて観た方がいいとは思う。

    ネタバレBOX

    一番ぐっときたのは、ラストでの編集マンとディレクターのコントラスト。

このページのQRコードです。

拡大