挽歌 公演情報 挽歌」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    「挽歌」として詠む、歌。
    劇団チョコらしい/トム・プロらしい舞台。前者は古川健氏の誠実な筆致、後者は俳優たちの佇まいから。
    東京公演には時間が取れず地方公演へ赴いた。作者が「福島」をどう描いたかをどうにも知りたかった。
    原発事故被災地としての「福島」への切り口に、これは意外な、しかし優れた着想だ。

    ネタバレBOX

    数首の短歌が冒頭に読まれる。高橋長英の低く押さえた声が響くと、「喪失」と「寂寥」の風が吹いて会場をさらってしまう。「状況」がこれらの歌を生み、歌が状況と思いを伝える。・・既にここに「答え」が有るので、芝居の展開に意外性が乏しいのは今作については憾みでもあるが、やむを得ない所だ。劇中の短歌が作者の作なのか、誰かの借用かは分らないが、、31程度の文字が芝居の中で持つ浸透力に、驚いた。

    ホームレス支援の現場らしいディテイルが一瞬みられるが、そうした所作に滲む「良心」の人間像が、主役の安田成美を筆頭に、群像として描き出されていた。
    芝居を強力に支えているのはホームレス役の高橋氏で、この静かな芝居の「静かさ」に滋味を与えている。

    帰還困難区域を抱える、第一原発に近い大熊町出身者が避難先の会津で作るコミュニティの一つが、舞台中央の畳の一間に集う、短歌グループ。
    ただ、劇中に紹介されるのはこの(メンバーでない)「ホームレス歌人」の読む歌だけである。冒頭そして半ば、さらに最後と幾首かを紹介される。
    最初は上記の短歌グループが新聞(役所の広報誌だったか)を通じて呼びかけた短歌募集にこたえて、役所に送られてきた(切手がないため直接投函した事が推測される)。
    最後の歌は、姿を見せなくなった彼が、グループのメンバーと一度だけの交わりとなったその夜を経て、やがてもたらされたらしい心境の変化がにじみ、メンバー一人一人への、一度だけ交わした言葉に対する返歌となっていた。
    歌は劇中にナレーション式に流され、心に沁みる。「孤独」を決め込み、事故への罪意識に埋もれていた彼の(死地を求めるかのような)漂白に、「歌」と共に生きた先人の姿も重ね合わさる。戯曲上の憎い計らいだ。
    冬を終えて春の到来を予感させる仄明るさがにじむ歌の、文字の向こうに何かを見ようと、メンバーは顔を寄せ合って紙片を眺めている。そして照明はフェードアウト。
    ラストの「形」は定番とはいえ、地域内の対立を生む構造を強いられた「福島」の現在を蓋することなく描いたゆえに、取って付けたような「希望」にはならず、「何が希望なのか」を考えるよう観る者に促していた。
    語らなければ、忘却を自他に許しているのに等しい・・とすればよくぞ語ってくれたと、挙って評価すべき作品だと言える。

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