満足度★★★★
ほのぼのとした家族愛の再生物語
25日午後、東京・蔵前にあるGフォース・アトリエで上演された『タカナシ家、明日は晴れ』を観てきた。
これは、作品の作と演出が加藤英雄ということで興味を持ったからである。加藤の作品は、これまで浅草リトルシアターで幾つか観て、おおよその作風というか癖はわかったのだが、リトルシアター以外の公演で、しかも彼の作品としては上演時間約90分とやや長めの作品がどうようなものなのか知りたくなったわけだ。
会場はマンションの屋上に増築されたような場所で、座席数は40。舞台は比較的広めだが、浅草同様大道具というのはベンチに見たてた横長の長方形の三人ほどが座れる箱のようなもの一つ。周囲は、黒い壁がそのまま使われているという実に簡素なものであった。
あらすじは以下の通り。
口下手の小説家・タカナシゲンイチロウは断筆宣言と共に一時入院。同時に今まで住んでいた家を建て替え始める。彼には母親が全員違う3人の娘がいるのだが、家に残り彼の面倒を観ているのは長女のカズミ1人。次女のツグミは父親が嫌いで家を出、三女のサトミは駆け落ち同様に結婚して家を出た。そんな3人娘が、父親の退院前日に家に集まってくる。次女は結婚しようと思う男性を連れ、三女は夫婦仲が悪くなり別れ話の相談のため。そして長女にも、好きな男性ができて手作りの料理を食べさせるために彼を家に呼ぶ。そんな3人の集まった所に、これまた偶然に父親が一日早く退院して戻ってきた。思いがけず、三人全員揃った娘達と会うゲンイチロウ。そこで執筆を頼みに来た出版社の社員や隣りに住むゴンドウ一家も巻き込んでのドタバタ劇。しかし、いつになく饒舌なゲンイチロウは娘達への思いを語り、特に長女の母親失踪の真実や兄がいて早逝したことを明らかにし、一同しんみりしたのがきっかけとなって娘達とゲンイチロウの間に家族の絆が戻ってくる。そして、ゲンイチロウは彼にしか見えない長男の亡霊と語り、家族全員の纏まった姿に安堵する。
家族愛と夫婦愛は、日常の些細な出来事で壊れかけても、お互いが素直になって相手の気持を思いやれば修復が可能だという暖かな家族物語。突出して出来の良い役者はいなかったが、ゲンイチロウ役の上田茂の雰囲気は、父親役にあっている上手い配役。
また、隣の家に住むゴンドウシズコ役の桂山みなは35年ぶりの舞台とのことだが、半ば舞台の進行役的な役目も担いなかなかの好演。
人物間のやり取りや、亡霊が一役買っている点は、いわゆる加藤英雄調全開という趣。
個人的な加藤英雄探求も、これで一区切りついたようだ。