満足度★★★★
久しぶりの『無伴奏』に泣く
「クラシックの楽曲をテーマに、曲に込められた魂を物語に紡ぎだす演劇集団」と、これまでの「クラシック音楽と演劇の融合」という表現とは異なる結成・存在趣旨を明確に打ち出した東京イボンヌによる3回めの企画公演。2回めの企画公演は、いわゆる初期の東京イボンヌの公演という位置づけになるだろうから、今回が現在の東京イボンヌによる初めての企画公演と言えるだろう。ただし、公演内容は、後半に初期からこの集団の財産ともなっている舞台で何度か再演されている『無伴奏』のダイジェスト版を置き(ある意味、これがメインプログラム)、前半に器楽と声楽曲によるコンサート、後半頭に高村光太郎の『智恵子抄』の一部を生演奏の伴奏付きでによる朗読という構成。
前半のコンサートは、ソプラノ4人にテノールとバスという声楽家に加え、集団の音楽監督である小松真理のピアノを中心に、フルート、クラリネット、トランペット、チューバそしてコントラバスという編成で全13曲を披露。面白かったのは、別宮と中田による『さくら横ちょう』の聴き比べだったかもしれない。小さなホールだったので身近に歌を聴くということでは満足の行くものだったが、よほど音楽通でないと原語で歌う歌の意味がわからなかったのではないだろうか。パンフレットに対訳をつけるか、対訳のみ有料で配布したほうがより親切だったと言えるだろう。その点から、イボンヌは物販という分野にも目を向ける必要があると感じた。
ソプラノとチェロによる一部伴奏付きの『智恵子抄』の朗読は、続く『無伴奏』への橋渡し的意味合いが込められていたように感じた。
そして『無伴奏』。10年以上も前にバイトしていた山奥のペンションに姿を表した天才チェリストと言われる女性。密かに彼女に惹かれていたオーナーとの久しぶりの再会は、彼女が重病の身から、心の拠り所としてペンションのオーナーを求めていたからなのだろう。素朴というか朴訥なオーナーと利発なチェリストが織りなす心の交流と運命。全編を観たことのある者にとって、後半部でグッと心にこみ上げるものがあって思わず涙ぐんでしまった。
一般役者と声楽家を交えた舞台は、役者の演技の質にいびつさは感じられたものの『無伴奏』の魂は観客に伝わったのではないかと思う。この作品、イボンヌの財産として貴重である。将来、新生イボンヌの本公演として改訂再演されることを望みたい。