満足度★★★★★
良い作品は全国巡業してほしい
田辺龍子役の長尾純子さん。みんなが着物の中、洋装で闊歩しズバズバ物言う姿が痛快。一葉との対照性が際立った。ラストの一葉へコメントが、女流作家として先陣を切りつつも一葉の活躍に対する悔しさと尊敬が滲み、心に突き刺さった。突然、涙があふれた自分に驚かされた。感服。●木野花さんの存在感はゴジラ級。当時の国民が当たり前だと思わされていた軍国主義的思想をユーモアとともに立ち上がらせる。一葉の元に集う人たちの「帰らないぞ」に「泊まる人カムイン」と英語で招く姿が素敵。集ったみんなが互いを大切にしている感じが楽しそうで羨ましい。●妹くに役の朝倉あきさんがいるだけで爽やか風が吹く。登場するたびに嬉しくなって頬が緩むのがわかるほど。健気で愛おしくなる。一葉の魅力に吸い寄せられた男たちから一葉を背中にかばい、やりとりを楽しむシーンが一番好き。やっぱり頬が緩む。●日向を生きるには恋心を抑え、人目を忍ぶ恋を選べば日陰で生きることになる。マスコミを賑わしていることがよぎる。あっても無くても世間はあったと言う。大きな満月が人間の浅はかさや愚かさを見ている。批評家と一葉の対決は、辛口で毒舌ながら、愛の告白。嬉々として見えた。●最期の桃水の「あと30分…」に起きた客席の笑いに違和感を感じた。まだ逝くなという思いではないのか。緑雨の「あなたが書くものをもっと読みたい」に、ジョン・レノンやマイケル・ジャクソンの死に際し、『次にどんな作品を届けてくれただろうか』と思いを馳せたことが蘇った。●世田谷でもそうだったが、お香のような和室や和服特有の香りの演出が為されていたように思う。それだけで時代を飛び越えられる。見事。残念だったのは、客席の上手下手では、向こうを向かれてしまうと台詞がほとんど聞き取れなかったこと。横が広い劇場だと仕方ないのかな。