おたふく 公演情報 おたふく」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    山本周五郎。
    前回の『座』公演=『友情』を面白く観たのでリピートした。今回は前回のスタジオから本館のシアターサンモールと広くなったが大きさに見合う舞台になっている。
    前回のような全生演奏ではないが、要所に生の笛が入っていた。「友情」の話が持つ鋭利さに比して、人情噺はまた違った趣である。ある種のユートピア的な関係性が、ドラマを成立させる程度にピンポイントで押さえられていなければならない。その点、少しイメージを違えた登場人物も居なくはなかったが、壌晴彦の読み下す地文に喚起される「想像の世界」と相補完しあって、周五郎の人情噺が具現した。
    フェリー二の「道」の主人公(ジェルソミーナ)ばりに健気で甲斐甲斐しく鷹揚で謙虚な、理想的な「おしず」という「女」像は、後に展開するドラマの伏線だが、やはりこれは男の心ばかりでなく観客の琴線にも届く。この女には相応しからざる「秘密」が、ある深刻な事態を引き起こしてゆくが・・・
     以上は後半のお話で、前半はおしずの苦労した前半生になっている。主に兄弟(家を出た二人の兄と、二人の娘=おしずとおたか)の物語だ。
     芝居は休憩を挟んで前編・後編に分かれ、同じ「おしず」が主人公ではあるが、それぞれ単独の話として観ても成り立つ。あるいは別個の短編をつなげたものかも知れない(推測)。

     周五郎の世界は、善人ばかりが登場する都合の良いお話、と見えなくないが、人間の醜さ弱さ、業を見ずには生きられない時代の人々へ、「ありえなくない形」=人間の可能性を「お話」の形で示そうとしたのではないか・・。 ある種の厳しさが、この人情噺の背後に流れているように感じる。
     芝居は分かりやすく、演出に親切な工夫が、前回と同様施されていた。「日本の文化遺産」に焦点を当てて行く『座』の仕事。

    ネタバレBOX

    後半の夫婦の人情噺は、二人の夫婦への不思議な収まり方が、悪くない。そのため、終盤に分かるその背景なるものは、なくたって良い。が、それも悪くない。
    ただ、そのオチが明らかになる前段に夫の疑念、嫉妬、荒廃が挟まるので、物語らしくはなるが、さほど深刻にならずとも良く、おしずの「愛」を最終的に否定して離反することは考えにくいので、まぁ「ちょっとした誤解だったね(笑)」で済む話である、というのが衆生の同意するところではないか。 であるので、妹のおたかがたまたま知った夫の「疑念」に、怒るのも良いが、切々と姉を思う言葉をこぼす程度でよく、相手を責める部分に比重をおかなくて良いと思った。 人の信頼がいとも容易く壊れること、に対する「怒り」と普遍化してみるも可だが、それとて、やんわりと責めてこそ、効果も。
    ・・といった所などは、ドラマを成立させるべきピンポイントの微妙さの例か。

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