満足度★★★
太宰の世界
川崎はここから先が工場地帯になる産業道路の内陸側の脇に、このたび初めて演劇(等)のフェスを開催するという、この地域「らしい」建物を訪れた。簡素だが雰囲気は悪くない。ウッディな色合いで黒が少ない。演劇(舞踊も?)では黒はニュートラルである。飴屋法水は色も音も完全に消す事はできない、「出来る」という共同幻想を演劇人は持っていやしないか、といった見解をどこかで述べていたが、「ニュートラル」は事実としてでなく目指すもの、としてやはり一つのあり方だ。想像(及び創造)の下地である。
おででこの実際の舞台は二度目だが、会場の選択がユニークで、「場所」を自分たち仕様に設えて舞台世界を構築するベクトルでなく、俳優がどの場所においても身一つでも世界を立ち上がらせる、という逆のベクトルがある(ように思う)。
今回は三女優による一人芝居×3+三人芝居。太宰治の小品を、恐らく原作のまま語っている。つまり、翻案しておらず、役者は絶えず動き、演劇的な演劇となっていた。学生時以来、太宰を再発見した。