シューキン演劇大学劇団「イワーノフ」 公演情報 シューキン演劇大学劇団「イワーノフ」」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★

    流れる気持…
    ロシア文化フェスティバル2015 IN JYAPNの一環としてワブタンゴフ記念国立アカデミー劇場付属 B・シューキン記念演劇大学劇団による日本公演である。
    「イワーノフ」(アントン・チェーホフ作)は、1888年の初演の時には激しい議論を引き起こしたらしいが、、生活的な真実とありきたりではない人物像とストーリーが高く評価されたそうである。今回の2幕:2時間15分(途中休憩)では、気持の有り様を求める会話のぶつかり合いが素晴らしかった。 

    梗概は、新しい社会を実現するために理想と奉仕に燃えるロシア中産階級の知識人イワーノフは、ユダヤ人のアンナと結婚する。そして5年の歳月が経った今、イワーノフは仕事や結婚への理想が破れ、自分の人生が失敗であったと思い始めた。彼は借金を抱え、彼の妻は胸(肺炎)を病み、死を間近にしている。隣人たちはそんなイワーノフの家庭を悪しざまに噂するが、若い娘サーシャだけは、彼を愛し彼との結婚を望んでいる。イワーノフはサーシャに新しい人生への希望を託そうとするのだが……。

    ネタバレBOX

    イワーノフは、彼の生きている社会情勢に絶望感を抱いている。自分を取り巻くすべてのものが自分を非難していると思っている。イワーノフは言葉をいくら尽くしても、誰も自分を救ってくれないし、新たな理想へ向かって行動することもできないと思っている。そして、自分が誰からも理解されないという強迫観念にとらわれ、ついには妄想の世界に逃避し、狂気の世界に落ちていく。

    その原因は、金持ちの娘であるアンナと結婚したが持参金を得ることができなかったからだと言うが、最大の原因は、彼女がユダヤ人であったからである。イワーノフは理想主義者として社会変革に身を捧げる一方、人種差別という壁を乗り越えなければならないと考え、アンナと結婚する。そのようにして理想を実践しようとしたが、失敗する。彼はアンナへの愛情が醒めた理由を他の女との愛のためだと非難されると、「黙れ、ユダヤ人」とアンナに叫んでしまう。それまで懸命に否定してきた差別意識を、もっとも深く持っていたのが自分自身であったことに気づく。彼は自分の生き方を決定してきた基準がいっさい崩れたことを知り、廃人のようになる。どんなに言葉を費やしても自己正当化の物語を作ることのできなかった男の虚ろな内面が谺している。
    イワーノフは隣人達との意思の疎通ができない絶望感に陥る。自分と他人同じ人間ではないと強弁する心理の反映物です。

    社会的に挫折した一人の男がどのように自分自身を疑ったり励ましたり、あるいはどのように外の世界を見たり感じたりしたのか。チェーホフの作品の民族・国境を超えたメッセージの普遍性、民族・国境を超えて人を惹きつけるチェーホフという人の偉大さを現している。

    次回公演を楽しみにしております。



このページのQRコードです。

拡大