黒き憑人 公演情報 黒き憑人」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    「黒き憑人」

     「あなたの人生はあと4日で終わります。」そう、言われたらあなたは一体どうしますか?
     
     「あと4日、やり残したこと、思い残しがないように、あなたをお手伝いするのが私の使命。何かやり残したこと、思い残すことはありませんか?」と憑人(死神)に問われたら、あなたは、そして私はどうするだろう。
     
     この舞台を観ている間中、ずっとこの2つの事を考えていた。

     足立優樹さんは、「あと4日」と命の期限を切られた、喧嘩っ早く、我儘で、すぐに物事を投げ出し、自分の事しか考えなかったが、死神の伊座波や暴漢に襲われた乃璃子を助け関わって行くことで、本来のお人好しで優しさと、人の為に動く自分を取り戻し、気持ちが行き違ったままだった父やバンドのメンバー、関わった周りの人々を思いやれるように変わって行く、人気バンドのヴォーカル倉菱礼を丁寧に、繊細にして激しく演じていた。

     実は、「あと4日」の命の期限を切られたのは礼の父であり、礼と気持ちが行き違ったままであることを悔やみ続けていた父の心残りが礼との和解であったことを知った礼が、最後のシーンで父にかけ続けた言葉と姿に、涙が込み上げて、溢れないようにずっと上を向いていた。

     船戸慎士さんの死神は、今までの死神のおどろおどろしいステレオタイプの死神像を軽やかに打ち破り、お茶目ながら、肝心な所では、きっちり強くかっこよく、礼を一番よく理解し、要所要所で、名言をさらっと言いながら、結果的に礼を導いて行く死神伊座波を飄々と演じていた。

     小祝麻里亜さんの乃璃子は父との心の距離に葛藤しながらも、純粋で爽やかな乃璃子だった。

     佐藤和久さんの乃璃子の父、龍之介は、政務と娘への愛情の狭間で悩み、乃璃子への愛情の示し方が解らない、不器用な父の姿を見事に現していた。

     鶴巻美加さんは、三役されたのですが、とても若いのに礼の母の心情が伝わって来て、しみじみした。

     今駒ちひろさんも、三役を演じられたのだが、三役を違う顔で演じられていた。

     最期に、保志乃弓季さんの龍之介の秘書原田は、秘書として、一人の女性としても密やかな想いを抱きつつ、龍之介をサポートして来たのに、龍之介が信頼しているからこそ、良かれと思って秘書ではなく乃璃子のサポート役にしようとしたのを、その意味を取り違えて、乃璃子を誘拐させるという過ちを犯してしまう、切なく強く胸がキュンと痛む一人の女性として描き出していた。

     重い内容になる話を、軽妙に面白く、それでいて「あと4日の人生」と言われた時、自分は何をやり残し、何を思い残したと思うのだろうかと考え、これからどう生きるか、親を始め自分の周りの人、自分と関わった人の事を改めて考えさせられた素晴らしい舞台だった。


                                文:麻美 雪

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