Sの唄 公演情報 Sの唄」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    mizhenの代表作になりうるリサイタル形式の独白音楽劇/約90分
    蕗子さんが「平松凛子」という女に扮し、会場のライブハウスを何度もそのステージに立って歌った馴染みの小屋に見立て、これが最後のライブになるかもしれない、と観客に宣言。
    その上で滔々と半生を語りながら合間合間に歌を聴かせる、歌手のリサイタルに擬した独白音楽劇。

    「代表作になりうる」と言うのは、今回初演された本作が、今後も演を重ね、このユニットの最も有名な演目へと育ってゆく可能性を秘めているからに他ならない。

    何より面白いし、ギター伴奏と蕗子さんの身一つあれば何処ででも――天候に恵まれれば路上でも――上演できるという強みがある。
    そして、「戦後」後の平和な日本が舞台だとぼんやり分かるのみで、時事性を出来るだけ排した戯曲は日本が大きく国体を変えない限り当面古びることはないだろう。

    再演に適した要素がこれだけ揃っている以上、この傑作がたった3度しか演じられずに封印されてしまうのはあまりにも勿体ない。
    「平松凛子」の年齢が特定しにくく書かれているのも再演可能性を強めていて、まだ20代の蕗子さんが年輪を重ねて貫録を加え、5年後、10年後にもこの芝居を演じている姿がありありと目に浮かぶ―。

    私はこのカンパニーの一ファンとして、全国の劇場やライブハウスでの公演、さらには高齢者施設や学校をめぐる巡回公演などを通じ、本作が老若男女を問わず出来るだけ多くの人の耳目に触れることを願ってやまない。

    むろん、ここまで強く再演を求めるのは、本作が見応えに富む傑作であるからなのは言わずもがな。

    緻密なシナリオ構成、語られる事柄のディテールの生々しさ、蕗子さんの緩急自在、硬軟無碍な魅せる演技、聴かせる歌…これらが相俟って創り出される、一人の女を語り手とする劇世界は性別・年齢にかかわらず客を引き込む普遍性に満ち、観る者の心をヒリヒリさせながらその奥深くへと滲み透って、魂をざわつかせずにはおかない。

    そして、作・演出の藤原佳奈さんの紡ぎ出す、詩情とユーモアと韻律とが手を組んで、聴く者の心にストンと落ちるレトリックの比類なさ―。

    “学校を回ってはどうか?”と先に書いたが、高校生くらいにもなれば、この作品はおそらく理解できるはず。
    また、演劇ならではの醍醐味を持つ本作のような作品を通じてこそ、演劇との出会いは果たされるべきである。

    では、最後に―。
    小刻みにビブラートする蕗子さんのか細い歌声から中島みゆきを連想したのは私だけ…?

    ネタバレBOX

    【ネタバレ注意!! 作品の核心部分に触れています。今後あるかもしれない再演が楽しめなくなるので、鑑賞済みの方のみお読みください。】










































    平松凛子の幼馴染みで、長じて音大に進み、今は楽曲作りのパートナーであると凛子によって語られる「S」という女。
    この「S」が、凛子の幼い頃に他界した音楽好きな母の化身であり、凛子の心にのみ生きる“虚構の存在”だと、そして、舞台上からギタリストが去り、照明が失せ、「ラストライブ」自体も虚構だったと明かされる終盤には震撼。。。

    しかし、大切な何かを失って心の中に出来た穴を別の何かで埋めようと試みるのは、意識的にであれ無意識的にであれ、人間ならばきっと誰もがやっていること。だからこそ本作は私を含む多くの客の共感を誘い、琴線を震わせるのに違いない。

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