満足度★★★★
関西スタイル
関西発。故マルセ太郎作の舞台。イカイノ=猪飼野と言えば歴史のある在日朝鮮人街で、ドラマの時代設定は現代(90年代あたりではないか)である。
在日コミュニティのある断面から、在日特有の家庭問題、人生観、習俗を垣間見せながら普遍的な人間のありように通底するドラマとして浮かび上がらせる。差別は当然の事として織り込んだ上で、たくましく、せせこましく、鷹揚に、堅実に、時に大胆に、つまりは「ここより別の場所」を思い描きながら「ここで」生きる大多数の人間の歩みを代弁する、姿たちの物語。笑あり涙あり、関西弁に乗せて人間臭を大開陳する関西らしい喜劇だった。
俳優は達者で、関西辺のエンタテインメント業界に住まう人たち(その道で稼いでいる)、と想像させた。
その特徴として、セットはリアル路線だが調度品など最小限にとどめ、演技で見せる。分かりやすい物言い。朝鮮訛りがいわゆるデフォルメされた「物まね」的な発音にとどまっていて、恐らく検証する時間も無いのだろう、持ち技だけで勝負していた(この舞台を持続的に打って行くつもりなら、もっと在日コミュニティの人材との交流があって良く、そうすればあのとって付けた訛りも改善するに違いない)。
「達者」ぶりの突出しているのはドラマの中心になる、兄弟。東京に出て芸人として一定の成功をなした(テレビには出ない)兄と、地元で母(ハルモニ)の面倒を見ている弟。この弟のキャラが立っていて、決して崩さない憎まれ口と強がりと独断的言行のスタイルの合間から人情味がにじみ出てくる様は忘れがたい。成功した兄は知性もあって語りがうまく場をさらう。この人が座長でもあって、私の見たステージでは台詞の「事故」があったが、殆どアドリブで流れを崩さず対処していた(客席も鋭く察知して大いに楽しんでいた)。
ドラマのほうは兄弟の母であるハルモニ(おばあちゃん)が、在日一世の苦労の象徴、また子孫への愛の源流として、控えめながら座の中心にあって、子の配偶者と孫、親類、友人などがその「距離」に応じてこの家族そしてコミュニティについて語り、描いて行く。生の節目の喜び、死と別れの悲しみ、歳月が人間に等しくもたらすものを味わう事の素朴な感動が、このドラマの核である。
惜しいのはやはりプロ的な作りである分、役同士の有機的な繋がりが熟成されるまでには至っておらず、人物の実在感が深い味わいを残す、という具合には行っていない事だ。これが関西スタイル?との感がよぎる。笑い飛ばす事を芝居の本義とする「醒めた」芸の伝統の一片に触れたという事なのかも。