満足度★★
折り重なる時間
ベケットの戯曲を一言も改編せずに(とのことです)オペラ化した作品で、現在と過去が折り重なる独特の雰囲気が印象的でしたが、音楽的に物足りなさを感じました。
毎年誕生日にオープンリールテープレコーダーに自身へのメッセージを吹き込むことを習慣にしている年老いた男が、過去の録音を聞き返して若かりし頃の自分に思いを巡らす物語で、諦めと希望の葛藤が淡々と表されていました。
聴覚的には録音によって過去が表されているのに対応して、視覚的には映像で過去を表現していましたが、何が映っているのか分かり難くてあまり効果を感じられませんでした。フェイクの影を映像で映し出し、本体から離れていく演出が印象的でした。
音楽は基本的に無調ながら旋律やハーモニーが感じられる部分もあり、当時の現代音楽作品の中では聞き易い作風でしたが、曲調が単調で物足りなさを感じました。過去の録音を聞き返すシーンでは事前に録音した歌声に楽器の生演奏が重なり、いわば「逆カラオケ」状態になっているのが興味深かったです。
1人しか登場人物が出て来ず、上演時間も1時間強と小規模な作品ですが、奥の壁面全体と天井の一部を作り込んだセットや肌の特殊メイク等、細かい部分にまで配慮が感じられて良かったです。