満足度★★★
発話されないテクスト
エルフリーデ・イェリネクさんが3.11に触発されて書いた戯曲を、現代美術の世界で活動する小沢剛さんが、歩き回って鑑賞する展覧会形式で演出した作品で、抽象的で難解なテクストに対して具象的な表現がなされていて、当時感じていた不安感を再認識させられました。
美術館の様にジグザグの導線を辿りながら、イェリネクさんのテクストを引用した絵画や立体や写真を鑑賞していると、会場にゴリラの着ぐるみが乱入して来て一番奥に設置された岩に寝そべると、導線を形成していた幕が端に移動し、展示物は天井に吊り上げられ、機械仕掛けのリコーダー四重奏が始まり、胴体にテクストが書かれた多数の牛の死骸の人形が床下から持ち込まれ、一気に不穏な雰囲気になりました。
スクリーンが下りて来て福島(?)の海岸でフラダンスを踊るゴリラの映像が流れた後に実際に現れて踊っている内に次第に最初の展示の状態に戻って行き、3.11を境に同じ様でも異なってしまった日常をイメージさせました。
ゴリラの手招きに従って奥の部屋に行くと、タイトルが大きく書かれた手前に放射性廃棄物を思わせる青い包みが大量に並べられていて、その上でゴリラが嘆く様な仕草を繰り返していて痛ましかったです。
小沢さんの美術作品は人を食った様なユーモラスなものが多いので、直接的に3.11を表現した今回のシリアスな作風が意外でした。役者に台詞を言わせるのではなく、発話されない文字としてテクストを扱っているのが美術家らしく思いました。
安野太郎さんによる「ゾンビ音楽」と称した、ガチャガチャと異様な音と共に奏される非人間的なリコーダーの音色がおぞましくて、強く印象に残りました。