満足度★★★
3.11を巡る、シリアスな音楽劇
三陸海岸沿いのホテルのロビーで3.11の津波の被害に遭った人達のその前後の物語を生演奏やダンスを盛り込みながら描いた作品で、悲惨さを殊更に訴えるのではなく、人との繋がりについて考えさせられる抑制の効いた表現が印象的でした。
日本人の男性と韓国人の女性の結婚式の準備をしている所に震災が起こった中で生き残った、新郎の同僚の中国人の女性と新郎の従兄弟が復旧工事中のホテルで再会する場面から始まり、現在と震災の日が交互に描かれ、現在生きている人達の会話の間に死んでしまった人達(白い衣装で統一されていました)の少々観念的なモノローグやダンスが織り交ぜられた構成でした。
原発事故のことには触れずに地震と津波のことだけを描くことによって、日本の中の政治的なことについてはあまり言及せず、寧ろ日本/中国/韓国の微妙な関係が浮かび上がっていました。最後のシーンでは水を張ったステージの中で日・中・韓のダンサー3人がそれぞれのスタイルの動きで一緒に踊り、舞台奥に現れる木造船が飛鳥時代の中国との交流を想像させて、象徴的でした。
『カフェ・ミュラー』(ピナ・バウシュ振付)や『ククルクク・パロマ 』(カエターノ・ヴェローゾ歌)が引用されている映画『トーク・トゥ・ハー』(ペドロ・アルモドバル監督)についてタイトルやアーティスト名を出さずに言及していましたが、その映画を観たことがない人には訳が分からないので、その部分の台詞はカットするか、もう少し詳しく触れる方が良いと思いました。
韓国の伝統楽器を用いたクロスオーヴァー系のバンド、アンサンブル・シナウィーの演奏が素晴らしく、各国のダンサー達も良かったのですが、キャスティング先行でそれぞれの見せ場を挿入したように見えてしまいました。
終盤では鈴木理策とキム・ジヨンさんが撮影した各国での写真がスライドショー的に流されたのですが、中国と韓国の役者が台詞を言う度に映像が翻訳の字幕に切り替わってしまって、流れを止めていたのが残念でした。
照明のオペレーションにミスが合ったり、スモークを大量に用いたわりには機械の音がうるさいだけであまり効果が感じられなかったり、マイクに頼り過ぎていて生声が聞こえず平板な音響デザインになっていたりと、技術的な面で問題が感じられたのが勿体なかったです。