満足度★★★★
惜しい。若さゆえのツメの甘さか
原発爆発を題材に取った、今これを取り上げる危険に挑戦した意欲作。
しかしチラシに劇作家さんが「原発の話をダシとして使っているに過ぎません」と書かざるを得なかったことからも、本人たちもツメの甘さを自覚していたか。
例えばお父さん役が爆発直後に家族に「逃げろ」と電話したのに次に登場したときは「逃げるわけにいかない」と、その間に葛藤があっただろうにそれが見えてこない。この前後のことは観客は承知のことで、どんな葛藤があったか問題提起してほしかった。
モンスターペアレント役は圧巻。実際はもっと迷惑な存在だろうから、もっと大げさでよかった。むしろ1教員に言えば学校の方針が変わると信じている社会性のなさも提示してほしかった。
全体的に抑えたセリフ回しは多様な役、葛藤が並列に進むことを淡々と表現していて好ましい。
チラシに主宰さんが引いた三島の文章からも、この作品は「非日常」が強くなっている今、希望を見せたいという意欲は伝わったが、むしろ「非日常」が続く今、個人において個人の責任で個人の生き方を決めるべきというメッセージが強かった。
役だけの人生がパラレルに進んでいく中、「希望」「調和」へ向かっていくという劇作の趣旨には今一歩及ばなかった気がする。
せっかく今、原発事故を取り上げるという挑戦をしたのだから、それは観客の承知事項として、役だけの葛藤が「希望」「調和」へ向かってほしかった。
せっかくの挑戦、うまい役者さんばかりの中で最後のツメの甘さを感じてしまい実に惜しい公演になった。
私は芝居の感想は良い点しか感じないようにしているが、だからこそもっと良くなるのにと歯噛みする感じで、次回作を期待したい。