空を飛ぶ 公演情報 空を飛ぶ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★

    情熱的だが人物像が一方向
    第二次世界大戦時の飛行機工場を舞台に、設計士や技術者たちの
    仕事に懸ける情熱と時代に翻弄されて行く姿を描く物語。
    演出に工夫があってテンポ良く進むが
    人物像がもっと多面的だったら、さらに奥行きが出たと思う。

    ネタバレBOX

    菱形の舞台スペースの角を挟んで二方向に客席が設けられている。
    事務所らしい大きいテーブルや古めかしい黒電話の事務机、黒板。
    開演前から懐かしい歌謡曲が流れている。
    「君だけに愛を」、「ブルーシャトー」…。
    ひとりの作業服姿の男が懐かしそうに事務所の中を見渡している。
    やがて「上を向いて歩こう」が流れ、かつての同僚が次々と現れる。
    再会を喜び合い、皆で集合写真を撮る。
    フラッシュが閃き、時代は戦争中の「中島飛行機 荻窪工場」へと遡る…。

    軍の飛行機に搭載する発動機を開発した中島飛行機は、
    さらに高性能の発動機を開発、受注するべく
    設計士の中川(渡辺望)を中心にチーム一丸となって取り組んでいる。
    山積する問題を一つずつ解決してようやく試作品が出来た頃、中川に赤紙が届く。
    一体誰がこの後の開発を引き継ぐのか、呆然とする同僚たち。
    だが実はもう一人、一番若い平井(加藤慶亮)にも赤紙は来ていたのだった。
    彼らが欧米の技術力との差を認識した頃、戦局は悪化の一途をたどっていた。
    終戦を迎えたが、平井はついに帰らなかった。
    発動機の資料がGHQに渡らないよう、中川たちは全ての資料を破棄する…。

    最初は「燃料でも何でも好きなだけ使え」みたいな景気の良いことを言っていた軍が、
    最後には資材の供給もできなくなって、懐中電灯の枠(?)で発動機を作れと言う。
    その傾いていくプロセスにあっても、実験し工夫し知恵を絞って仕事を全うしようとする
    男たちの集中力と粘り強さはひたむきな情熱を感じさせる。
    好きな飛行機に関われるだけで幸せという“天職”を得た人の喜びだ。

    中川役の渡辺望さん、いつも観る天幕旅団ではひねった人物像が多かったが
    今回は怖ろしくストレートで迷いのない男を熱く演じている。
    だがテンションを保つだけでも大変そうなこのキャラ設定に
    いまひとつ奥行きが感じられないのは、あの情熱を傾けた発動機の開発が
    “人を戦地へ送り込む物であること”への葛藤が見られないからかもしれない。

    たぶん胸の内には中島飛行機の誰もが抱いていたであろう
    疑問と矛盾に向き合う場面、内省する場面があったら
    “2つのキノコ雲”や“焼けた東京”がもっと切実になったと思うし、
    ラスト、もう帰らない平井が見つめる中、
    大量の資料の紙を撒く中川たちの思いが鮮明になったと思う。
    結果的に向上心を利用された技術者たちは皆
    開発に一途なだけでなく、迷いや後悔に苛まれたのではなかったか。

    女性陣の着物の着付けがイマイチなのと、
    男性陣の衣装がどうも今風に見えたのがちょっと残念。

    スピーディーな出ハケと照明でメリハリがあったし、
    発動機の仕組みを妻に説明するシーンのおかげでわかりやすかった。
    試作品を搭載してプロペラを回してみる場面は
    臨場感があってとても良かったと思う。
    大量の紙が床を覆い尽くす演出は、飛行機が舞うようで
    開発者たちの無念が伝わって来た。

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