満足度★★★★★
歪だけど、リアル
全くどんな芝居か、内容を知らずに観に行ったので、ある意味衝撃的でした。
この芝居の主役の、ケネスとサンドラの思考形態や、価値観には、あまり共感は覚えませんが、それでも、これはイギリスの多くの家庭で、実際に起こりえる事象を丁寧に、転写表現した作品だという実感はありました。
大家さんの舞台は、数えきれない程観ていますが、今回の作品ほど、彼が魅力ある役者さんだということを認識させられた経験はかつてなかったと思います。
松熊さんは、以前から、上手な女優さんだなと注目していましたが、今回のサンドラ役の身を呈した乗り移りぶりは、快挙的な素晴らしさでした。
ジェイミー役の前田さん、お若いのに、先輩俳優の間で、実に繊細な役どころを無理なく演じていらして、驚きました。昔観た映画で、少年時代のブラッド・ピットが、自閉症の少年を好演していましたが、それを彷彿とさせる秀逸な演技でした。
安藤さんは、養成所時代から既に完成した演技力を有していましたが、青年座団員になられてしばらくは、才気が先走ってしまう、過剰演技が、彼女の良さを隠してしまう懸念を感じたのですが、今回のローズ役では、自然に近い演技の見事さに息を呑みました。安藤さんの女優としての躍進に期待が持てると、少なからず御縁があった人間として、嬉しくなりました。
嶋田さんは、少し前までは、役を深く考え過ぎて、役に演技を封じ込められるような迷いを感じる役者さんでしたが、柔軟性ある演技をものになさったようで、今回のヘンリー役、こちらまで、感情移入してしまうリアルさがありました。
創立当時から、新劇嫌いな父が唯一、目を掛けていた劇団が、旗揚げメンバーが次々と他界された後も、力を失うことなく、新しい才能や風を積極的に受け入れて、健在どころか、益々、価値ある劇団に進化している様を拝見し、個人的にも、万感胸に迫るものがありました。