エノケン 公演情報 エノケン」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    日本の喜劇王と言われた田榎本健一の悲運の生涯伝である。昭和初期から戦争をまたいてTV初期まで、森繁以前に、日本の初期のレビュー音楽劇を制覇した男の生涯である。活躍した時期が悪かった。TVでも「お父さんの季節」など30分連ドラをやっているが、映像はほとんど残っていない。ましてや、カジノフォーリーズや笑いの天国はないし、映画は名前を看板にしたドタバタしかない。黒沢の勧進帳(中編)くらいしか見るべきものは残っていない。しかし、その存在が日本の音楽入り喜劇レビューミュージカルの嚆矢となったことはほとんどの演劇史が認めるところで、ここを素材にしたドラマは長く渇仰されてきた。
    ようやく見ることが出来たのは、唯一横内健介の「菊谷物語」。再演までした作品だが、小劇場の作りで肝心のカジノフォーリーズの舞台などほとんどないし、菊谷のエノケンの舞台もない。だって、資料がないんだもん。横内は高校演劇の出身で小劇場から出ているが、そこはルールをよくわきまえて、礼儀正しいが、それではエノケンの本質に迫れない。ロッパや夢声は日記を書くこまめさがあったが、エノケンにはそれがない。だから、演劇の想像力が要る。そこを逃げたのか、知らないのか、参ったの出来である。
    東宝が旗艦のクリエでエノケンをやると聞いた、しかも市村正親というので四月も前からチケット買っていた。
    がっかりである。
    まず、本がまるで出来ていない。シライケイタも腰がが入っていない。菊田一夫流の人情劇に纏めようとしたのが大失敗である。時代を越えようとした喜劇の天才が、時代と病魔に斃れる悲劇を背景にしたストレートな劇にすれば何年も上演できる芝居になって、パリの「天井桟敷の人々」に匹敵できる日本のバックステージものの傑作になって、歴代喜劇の覇者を目指す者は必ず挑戦する作品になったのに、みすみすそのチャンスを潰した。気軽に出来ると思った芸人の作者を責めるのも気恥ずかしい。「エノケン」にある時代と演劇への無神経は恐るべしである。
    市村正親は現代のミュ-ジカル俳優である。上手いし、声もいい。歌も上手い。私の知っているエノケンは声も悪いし、歌はコミックソングである。もうほとんど昔日の動きの片鱗もなかった。それなのに、若いときはいわゆる「舞台の愛嬌」はスゴかっただろうと思わせはしたがったが、その実態のとっかかりがない。良かったのはポスターにあったシルエットだけである。ホントは舞台の動きを見せなければ芝居にならない。
    だから、この際、今見るなら、新しいミュージカルに仕立て直して、歌あり、、踊りあり。巨大マッピングありの現代レビューに作り直して再演できるような舞台にして見せてほしかった。
    超人気者だった名にあやかって。チケットは完売だそうだからいくら本当のことを書いても良いとして★はホントなら二つ星である。素材への取組みが致命傷である。

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