懐かしき、未来 ‒ a nostalgic future ‒ 公演情報 懐かしき、未来 ‒ a nostalgic future ‒」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    凄い一人芝居。作者の深井邦彦氏は鬱の塊を力一杯ぶつけてくるのでこっちは痛くてたまらない。御約束の奴は牛乳だった。過去のトラウマを救い、現在の不甲斐なさを立て直し、未来を明るく見据えたい。誰もが願うそんな気持ちが精一杯作品に込められている。
    佐藤正和氏に感服したのは、最後まで一人芝居に思わせなかったところ。感情が波となってうねり、その後ろに情景が確かに見えた。伝える、ということに徹した演出。浮かび上がる母親の陰影。時間の海に漂う自分という乗り物。過去も現在も未来も全てがここに在る。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    舞台は熊本県。小4の10歳の少年が主人公。1980年7月7日の月曜日から13日の日曜日までの一週間。父が事故死し母と二人暮らし。母は精神的に不安定で暴力を振るう。少年は牛乳瓶をゴクゴク飲み干しては登校する。学校では酷い苛めに遭っている。下校するとパチンコ屋に向かって母を探す。店内で玉拾いして時間を潰す。母が勝った日は近所の店でナポリタンを一緒に食べる。帰宅するとドアをガンガン叩く音と怒声、借金取りだ。じっと息を殺してやり過ごす。母は化粧して夜の仕事に出掛ける。ある夜、男達がアパートに侵入して来て母子共々ボコボコにされる。母は何処かに連れて行かれた。数日ぶりに帰って来た母は日曜日に天草の海に行こうと言う。海にはピンクのイルカが棲んでいて、それを見るとどんな願いでも叶うんだそうだ。日曜日、ずっと海を眺めて探し続ける。母はトイレに立つ。すると突然傍に妙なおっさんが立っていることに気付く。ウエスタンハットにポンチョ、夏なのに妙な風体だ。おっさんは「君の願いを叶えてあげる」と宙に浮く銀色の乗り物に手招きする。

    2171年、男は200歳になっていた。母親を名乗る者から手紙が届く。何となく病院に行くと寝たきりの老婆。本当に母親だったのかすらもう思い出せない。赤の他人のような会話が続く。何かそれが妙に楽しくなってきて数ヶ月通う。amazonでタイムマシンを買って過去に行ってみる。天草の海岸で母に棄てられた10歳の自分がいた。少年を乗せて1977年大晦日に飛ぶ。父親と母親と楽しく紅白歌合戦を観ている頃。明けて1978年1月、この月に父親がホームから転落して電車に撥ねられて亡くなるのだ。少年は父親を助けて、過去を変えようとする。1周目は朝飲んだ牛乳で腹を下してトイレに駆け込み駅員に補導されてBAD END。2周目は父親に叱られ会社の同僚に車で帰されてBAD END。3周目は直接父親を助けようと駅で待っていたが、矢張り運命は変えられず目の前で父親は轢死してBAD END。男は連絡を受け2171年に帰る。母親を名乗る老婆が亡くなっていた。もう一度過去に戻ってみる。少年はサバサバした表情で7月7日からの一週間を辿ってみたいと言う。母親に殴られ、学校で苛められ、今となっては全てどうでもいい出来事だ。もう何も自分を傷つけられない。自分はそんな痛みを超えてしまった。さあ天草の海岸でサヨウナラだ。お母さん、あなたはあなたの人生を精一杯生きて下さい。今日まで育てて下さって有難うございました。感謝してもし切れません。有難うございました。有難うございました。有難う!またいつか!男に肩車されたウエスタンハットにポンチョ姿の少年は泣きながら、走り去る母親の車を追い掛ける。ずっとあなたのことを愛していました!

    タイムマシンの設定は記憶内を仮想空間にしてアバターである自分が体験する夢でいいと思う。何度も何度も過去を追想して、自分の真意に気付く。

    タイムマシンをamazonで買う為、設定を説明無しで200年後にしたのは正解。この巨大な嘘のお陰でいろんな矛盾が気にならなくなる。この手はアリだと思う。取り敢えず200年後に話が飛べばもうこっちは文句を付けられない。

    ※佐藤正和氏に前から妙な既視感を感じていたが、「矢野・兵動」の兵動大樹の話芸に似ていると思ったからかも知れない。

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