鏡の中の鏡 公演情報 鏡の中の鏡」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    MVPは美術デザインの深沢襟さん。この人のセンスはヤバイ。見たことのないデザイン感覚。ハニカム構造の白い網のような物をぐるぐると身体に巻き付けていく。無数のドアが綺麗に折り畳まれていく。幾何学的な部屋が幾つも出現しては一つの箱になる。エッシャーの騙し絵のような世界。まさしく今作の視覚化に成功している。視覚と素材の触覚までも計算しているのだろう。

    榊原有美さんによる子供達を参加させる遊戯感覚のオープニング。沢山のひらがなが散らばっている。和やかな雰囲気を一変させて金属の牛の仮面を着けた杉山賢氏が登場し静かな声で語り出す。「私の名前はホア」。(自分はコア〈CORE〉と聴こえた)。暗い声が木霊する。一変した雰囲気に怯えて泣き叫ぶ幼児。前半はもろ万有引力の世界。自分という牢獄から何とか脱出を計るミノタウロスの独白。迷宮ラビュリントスに閉じ込められた牛頭人身の男は音が無限に反響する世界を彷徨い歩く。

    この迷宮都市から脱け出す為の試験を受ける若者(杉山賢氏)。翼を着け幸福に包まれた彼に町の不幸な男(大高浩一氏)が自分の不幸を少し肩代わりしてくれと頼む。杖として体にぶら下げられる不幸。ステッキやら傘の柄やら観客も次々にぶら下げていく。重くなった身体を引きずる若者、与えられた試験を忠実にこなした。だが結果は不合格。服従しないことこそがこの試験の答だったのだ。

    断片的な短篇が無作為に続く。

    子供相手にこれをやるのかという興奮はあった。子供の機嫌など露程も気に掛けない姿勢は好感。

    ネタバレBOX

    等身大の透明な人型のアクリルシート。大高浩一氏がハンドルを回すとまるで走っているようにも見える。

    幕が上がったら芝居が始まるのだがいつまで経っても幕は上がらない。

    絶え間なく続く芝居、その芝居だけが世界を一つに結び付けていた。ある日、ある一つの言葉が消えてしまう。その言葉なしでは芝居は続けられない。世界はバラバラな断片になりもうそれぞれは何一つ関係がなくなってしまった。その言葉とは何か?

    展覧会を観に来た夫婦(大高浩一氏と舘野百代さん)。受付の女(榊原有美さん)は出入口のない部屋に閉じ込められている。

    見張り台から望遠鏡を持った船乗りが降りて来る。そこにバランスポールを持った綱渡りが歩いて来て鉢合わせ。

    寝台に寝ている人形。

    王女アリアドネー(榊原有美さん)と英雄テーセウス(杉山賢氏)が迷宮ラビュリントスの扉の前で対話する。テーセウスがその中に入って行く。彼はミノタウロスを倒す目的を果たせぬままミノタウロスになり、冒頭に戻る。「おわり」と「はじまり」はいつも同時にやって来る。

    前半は超面白い。恐るべしSPAC!と驚嘆したが、展示室の受付エピソードくらいから停滞。ナンセンスなオチのないコントの垂れ流し。原作がどうだか知らないが、二次創作としてやるのなら肚を決めて欲しい。解き明かすべきものが何もないと判った時からぼんやりと遣り取りを眺めるだけになる。ある一つの観念が伝わるように工夫すべき。

    ミヒャエル・エンデは今作をホメオパシー(ホメオパティー)として書いたと言う。薄めに薄めた猛毒を服用させることにより毒への抵抗力が生まれ、読者を健康にする。それが芸術の治癒効果の秘密。

    この世界を脱出する方法は演劇しかないという話は面白かった。自分で自分を現実世界で演じていくしかない。

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