ミュージカル「ロスト・フォレスト~Lost Forest~」 公演情報 ミュージカル「ロスト・フォレスト~Lost Forest~」」の観てきた!クチコミ一覧

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  • 地域劇場のこけら落としに相応しい作品とはなにか
    音楽座を結成した横山由和さんが作・演出した舞台。
    音楽座は名前を知っているだけで拝見したことはないのですが、非常に確かな舞台づくりをされて来た方なのだな、という印象を持ちました。
    そして出演者は地力のある、基礎力の高い方が多く、この演出にも慣れた感じで安定感がありました。

    けれど、どうしても、今ひとつ、心穏やかに観ることが出来ません。

    これは脚本の個性がとても強い作品だと思います。だから、趣味が分かれる。いろんなものを混ぜたいみたいで、そして全く統一感がない。「あぁ、これはこういうものなんだな」と分かりやすいイメージを提示してくるのに、ちょっとずつ外してきます。意外とアヴァンギャルドなんですよね。とてもひねくれています。はっきり言ってよく分かりません。

    例えばキャラクター造形について。
    幽霊の役があります。
    ピエロみたいな服を着ているのに、幽霊だと言って現れます。バレエダンスを踊ってクラシックの素地のある動きを見せつつ、パントマイムのような動きをしつつ、歌を歌い、自分は水子であることを示唆し、最後に道化になります。自分は生きた存在じゃないから命が欲しいと言ったり、幽霊然とすべく恨む能力が欲しいと言ったりもします。そして実は、彼は主人公が描いた絵本のキャラクターなんです。
    ・・・情報が多すぎます。こんなにいろんな情報を詰め込むと、もはや訳が分からない、スマートじゃないですよね。
    人の潜在意識の下にある混沌を描いているので、こんなキャラクターが出て来ること自体は無理ではないのですが、ちょっとやり過ぎです。
    でも役者がそれを演じちゃえるんですよね。凄い。

    更に難を言うと、構成はくどくて、題材がギリギリなんです。
    観客を飽きさせないためにだと思うんですけど、面白そうなオーソドックスなイメージをどんどんつなげてくる。でもそれがとにかくとりとめもなくばらんばらんなものなんです。しかも、楽しく見せようと押しつけてくるんです。疲れてしまいます。飽きさせたくなかったら、場面を重ねるより削る方が有効かもしれません。
    また、主人公が女に流産させた胎児のことを題材にしているのだけど、それを何度も何度も重ねて説明してくる。きついですね。そんなに重ねなくてもいいでしょう。作者の個人的な強い思い入れを感じます。

    川崎市の事業の1つ、地域劇場を目指して作られた「しんゆりシアター」という団体の最初の演目ですが、これで良かったのでしょうか?
     地域を相手に、演劇をあまり観劇しない人にも観に来て貰うことを狙うならば、誰もが共感できそうな普遍的な題材を選ぶ方がいいのではないでしょうか? 胎児を失うこと(及び中絶)は、当事者にしか分からない非常に大きな感情の波を起こさせると思います。それは想像では補えないほどのものだと思います。その苦悩を負った男を応援する温かい、いや、熱い物語なんですけど、その熱さを役者も観客も共有出来るでしょうか? 経験者でなければ、おおいなる疎外感を持つのではないでしょうか。脚本を書いた人以外は。

    私の読みでは、演出家の非常に身近な人にこういったことが起こり、
    彼へのエールの気持ちから出来た物語なのではないかなぁ。
    そんな"個人的な感じ"が強い作品を地域劇場のこけら落としに持って来るというのは、どうかなぁって思いました。

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