リチャード三世 公演情報 リチャード三世」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    シェイクスピアの初期作でデビュー作とされる『ヘンリー六世』三部作の続編。15世紀にイングランドで起きた薔薇戦争がモチーフ。赤薔薇の紋章・ランカスター家のイングランド王ヘンリー六世に対し、白薔薇の紋章・ヨーク家のヨーク公リチャードが反乱を起こす。30年続く凄惨な内戦の中、ヨーク家のエドワード四世が王位に付く。その弟、リチャード三世は生まれつき傴僂で跛、この世の全てを憎み自分の欲望を満たす為ならどんな残虐非道なことも平気で出来る邪悪の化身。嘘をつき罠に嵌め家族も仲間も簡単に裏切る冷血な人非人。このリチャード三世が地獄の太閤記さながら成り上がった末、惨めに破滅していく姿を描く。

    リチャード三世、加藤義宗氏は劇団印象の鈴木アツト氏っぽい。傴僂でも跛でもなく、『ハウス・ジャック・ビルト』のマット・ディロンを思わせる長身細身のナルシシスティックなサイコパス。自分さえ良ければ何だっていい完全に頭のイカれたキチガイ野郎。このキチガイに妙に気品があり、少々間の抜けた人間味さえ感じさせるところが巧い。
    MVPはバッキンガム公・津村知与支(のりよし)氏か。邪悪なアシストの汚れ役、屑を神輿に担ぎ天下を取らせる見事な女房役。ガッチリ笑いを取っていた。
    イングランド王妃エリザベス、日下由美さんは綺麗だったな。
    渡邊りょう氏にはヒース・レジャーを感じるときがあり、ジョーカーのような嵌り役を見付ければ役と共に死ぬような危うさがある。
    のぐち和美さんは流石だな。声色だけで只者じゃないと観客を黙らせる。毒々しくキメるスパイス。トリカブト役者。

    役者陣は強者揃い。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    悪党三昧の舞台に『仁義なき戦い』を思い出す。広島抗争の中心に立ったヤクザ、美能幸三が刑務所に収監された7年間で書いた獄中手記。自分の見てきた洗いざらいを全て曝け出した。親分であった山村辰雄の金と欲と色に任せた醜態を赤裸々に暴き、任侠道なんてものは内実こんなものだと世間に喧伝した。それを噂に聞き、入手した「週刊サンケイ」が飯干晃一に解説文を付けさせて「仁義なき戦い 広島やくざ流血20年の記録」として連載させる。その面白さに唸った東映の岡田茂社長が映画化を決定。アメリカではジョゼフ・ヴァラキが司法取引によりFBIにマフィア(コーサ・ノストラ)の情報を知る限り供述。世間に謎とされてきた組織の内情が到頭明かされ大衆に衝撃を与える。マリオ・プーゾが事実を元にしてマフィア一家を描いた小説『ゴッドファーザー』がベストセラー、映画化して大ヒット。岡田茂社長は日本でも実話を元にヤクザ映画を作るべきだと睨んだ。登場するモデルになったヤクザ達がまだ存命の時代、身の危険を感じながら取材しまくった笠原和夫の魂がこもった脚本。広島抗争とは大組織であり全国制覇を目指す山口組と本多会が後押しをした代理戦争でもあった。アメリカとソ連に支援されて朝鮮やベトナムで現地の民族同士が延々殺し合いをさせられた時代。広島で生まれ育った者達が神戸の大組織の命令で敵味方に分かれ延々殺し合う姿。実際は書けないことが多過ぎた。(晩年の山村辰雄は痴呆症だったのでは?と言われている)。
    話としては美能幸三が親分である山村辰雄に騙され裏切られ使い捨てられひたすら散々な目に遭う物語。主演・菅原文太は組長・金子信雄とその取り巻きの田中邦衛、山城新伍の屑っぷりを憎み罵り怒り狂う。だが映画が大ヒットして全5作製作されていく内に段々と観客に変化が訪れる。悪役である金子信雄、田中邦衛、山城新伍が屑っぷりを見せ付ける度にどっと沸くのだ。待ってました!と。愛すべき屑っぷり、製作陣も思いも寄らぬ妙な魅力の創出。これにより『仁義なき戦い』シリーズは永遠に残る作品となった。

    津村知与支氏の演じたキャラクターに似た感触を覚える。リチャード三世もイケメンニヒルではなく、金子信雄的に演ってこそ日本文化ではないか。金子信雄、田中邦衛、山城新伍にこそシェイクスピアを託したい。

    隠し芸大会のように次々と何役も兼ねて役者が登場。一つだけのセット、普段着のような衣装も含めそれでも今作を最後までこなすことが目的の舞台なんだろう。そうなると演出が物足りない気も。あの手この手のアイディアで手を変え品を変え笑わしてごまかしてこそだろう。歌に踊りにコントに、遣り口は幾らでもある。一本調子じゃ観てる方も辛い。どういう作品にしたいのかハッキリしていない感じ。居眠り客は開幕から多く、客層もよく判らなかった。

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