リア女王 公演情報 リア女王」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    持田千妃来さん出演。

    原作の「リア王」はシェイクスピアの17世紀の作品。日本語訳にはいろんなパターンがあります。今回はクレジットに「訳:小田島雄志」と。いくつかの訳書で確認したところ、今回舞台の言い回しは確かに小田島版でした。「その愛は言葉を貧しくさせ、唇を閉じさせます」とか、いいですねえ。

    もともと「リア王」は3~4時間かかるそうです。セリフの量がとても多いんですね。それを2時間に収めるためでしょう、セリフも動きも目まぐるしく。演者のみなさんの努力のたまものですね。

    小田島氏はある本のあとがきで「父と子の問題は、永遠のテーマかも知れません」と結んでいます。王は娘たちの本心を見抜けず。グロスター伯も同様でした。その行き違いが悲劇を生んだというわけです。

    「リア王」では王の3人の娘は女性ですが、ほかはほぼ男性です。今回の「リア女王」ではほとんどが女性という設定になっています。女性同士の婚姻や恋愛が話に登場しますが、それは物語にはあまり影響なかったと思います。脚色の狙いがあったとしたらすみません。くみ取れませんでした。

    持田さんのエドマンド。女性として描かれましたが、悪党としての表現がすごかったからでしょうか、自分には原作と同じ男性のエドマンドに見えました。それが違和感を消してくれたのかも知れないですね。

    ネタバレBOX

    今回舞台は公式に「ネイハム・テイト風」とされています。シェイクスピアのオリジナルと「テイト版」は、実はかなり違います。

    たとえば冒頭の順番が違います。今回はテイト版と同様、いきなりエドマンドのモノローグでただならぬ先行きを予感させます。悪党として描かれるエドマンド中心の話であることが強調されることになります。実はオリジナルのシェイクスピア版では冒頭は王宮で三女を追放するまでのシーンで、エドマンドはいません(訂正:いますが目立ちません)。エドマンドのモノローグは2番目のシーンなのです。強調したいところが違うのですね。

    オリジナルでは、主要な人物で生き残るのはオールバニ公とエドガーのみです。エドマンドは兄エドガーとの決闘で。兄弟の父グロスター伯はその少し前に息絶え。王の次女リーガンは長女ゴネリルによる毒殺。ゴネリルは自死。フランス王妃になっていた三女コーディーリアはエドマンドの刺客により。リア王はその悲しみのなかで。ケント伯は王の後を追うことを宣言して終幕します。悲劇ではありますが、悪党はみな死ぬ、生き残ったのは一部の善人というわけです。

    テイト版は「悲喜劇」とも言われるように、ある程度ハッピーエンドになっています。フランス王は登場せず、コーディーリアとエドガーが恋仲で、最終的に結婚します。リア王、ケント伯、グロスター伯も生きています。ただしエドマンド、ゴネリル、リーガンは死にます。やっぱり悪党はみな死ぬ、というわけです。

    そして今回の「リア女王」は。上に書いた人物が全員生きているんですね。悪党も改心したことになっています。「喜劇」と銘打っていて、悲劇をできるだけなくしたんでしょうか。自分の感想としては、都合がよすぎるなあ、というのが正直なところです。

    コーンウォール公と、刺し違えた名もなき衛士はどの版でも死んでしまいます。公爵の妻であるリーガンが未亡人になることがポイントのひとつなので、そこは変えにくかったでしょうね。

    ちなみにテイト版には道化はいませんが、今回は採用したのですね。小田島氏の訳書に子供向けの本があり「道化は実は賢くないとできない仕事」と解説されています。道化のセリフに含まれる多くの皮肉には、本を読んでやっと分かるものもありました。頭がよくないとできないのは間違いありません。

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