錦秋十月大歌舞伎 公演情報 錦秋十月大歌舞伎」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「夫婦役者による愁嘆場を堪能――『婦系図』」

     泉鏡花が1908年に発表した小説をもと翌7年に初演された新派の代表的演目のひとつである。過去に手掛けたことのある仁左衛門の早瀬主税、玉三郎のお蔦の初顔合わせが実現した。

    ネタバレBOX

     少年時代はスリだった主税は酒井俊蔵(彌十郎)に助けられドイツ語学者に大成したものの、柳橋の芸者であるお蔦と密かに所帯を持っている。酒井に俺を取るか女を取るかと迫られた主税はお蔦に別れを切り出す。

     発端の本郷薬師縁日の場でスリの万吉(亀鶴)が追い詰められる窮地を主税が救う場面で、万吉を見て往時を思い起こす仁左衛門の思い入れが印象深い。その後の柳橋柏屋で酒井に迫られるくだりでは、正座のまま二回後ろに下がって酒井に頭をつく、ここから主税の苦悩が浮かび上がる。事情を知る柏屋の芸者小芳は、萬壽のおおらかさが師弟の厳しいやり取りをうまくとりなしていた。

     さて、原作にはなく新たに鏡花が書き下ろした湯島境内の場になると、まずは芝居の声真似の男二人が前幕の厳しいやり取りに沈む客席を盛り上げる。そこからいよいよ仁左衛門の主税と玉三郎のお蔦が入ってくる。玉三郎のお蔦のナチュラルな語りは『怪談 牡丹燈籠』のお峰を彷彿とさせる。主税の思いがけない告白をはじめは冗談のように受け取り、そこから真相を知り絶望に突き落とされるまでの怒涛のような感情の流れが手に取るようにわかってうまいものである。酒井からの手切れの金を渡されて思わず投げ返すところにこの女の意地が浮かんだ。主税とお蔦が涙を浮かべながら幕となる愁嘆場は決まりそうで決まらない、これが新派かと思わせる余韻を残した。


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