実演鑑賞
満足度★★★★
以前一度訪れたと思っていた住宅街のど真ん中のアトリエではなかった。池上通りに面した建物だが「音」環境は悪くなく、この劇団の舞台仕様として劇場内部も悪くない。よく見ると若手公演とあり、観劇前に少々視る構えを変えたのだったが、山の手事情社特有のエネルギー量の表出のある演技が小気味よく展開し、前のめりになった。
逆に、突出した表現力というのかキャラ提示のある中で、「一般的な演技」に留まる俳優がいて、どこかの研究生公演などではよく頑張ってる部類だろうが、この劇団ではその先に磨かれた陶器のような独自の「色」を表出する事がその向こうの目指すべき到達点として設定されているのだろうか、それともたまたま剛力な役者が集まったのか、キャラが役に嵌まったのか・・。言いたいのはその「よくやってる」はずのオーソドックスな演技者が目立ってしまったという奇妙な現象のこと。
もう一つ厳しい論評をすれば(これほど楽しんだにも関わらず・・)、後半が特にであったが、序奏から中盤までは戯曲へのある批評的なスタンスが(恐らくは演技メソッドと身体表現、演出面からの)見られたのに対し、後半のある時間はストーリー説明のみの時間になっていた気がした。戯曲を超えられていないというか、捻じ伏せきれてないというか・・かなり高いハードル設定になってるとは思うのだが、正直な感じ方であった。
(余談だが会場整理に立っていたやや年輩の役者、最近どこかで見たと思ったら唐ゼミ「少女仮面」で目にしていた。チラシを見直すと確かに所属も書かれていた。まあそんだけの話。)
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/08/01 (木) 13:00
座席1階
山の手事情社の若手俳優による公演。劇団のアトリエにしつらえられた舞台はなぜか和風だ。掛け軸なんかも配置されている。観客が40人も入れるかどうかというこのスペースでシェークスピアの「真夏の夜の夢」が展開された。
この戯曲の見どころは、森の妖精が森に入り込んでくる人間たちに媚薬を塗って、その恋愛関係を複雑にしてしまうというところではないか。登場人物が多いので追いかけて理解するのはとても難しいが、媚薬を塗られた登場人物が、これまでの恋愛関係が逆転、輻輳化していく面白さは誰がどうしたという関係性が分からなくなっても十分に堪能できる。さらに、山の手事情社独自のメソッドでのばっちり鍛えられている俳優たちが繰り広げる身体表現で物語を構成していくのが最大の注目点であろう。この身体表現は、役者全員がそろって繰り広げるパフォーマンスを見るにつけ、やはり切れ味抜群だ。今回は特に、若いメンバーたちによる身体表現であり、その若々しさや粗削りの魅力も相まって、客席を魅了し続けた。
このアトリエは役者と客席の距離が1~2メートルと下北沢の小劇場よりも近接していて、迫力がすごい。目の大きな女性の俳優さんの強烈な視線を客席が浴びることになり、ある意味、お客さんが俳優によって媚薬を塗られるという錯覚すら感じる。媚薬の標的になったら最後、その役者に恋い焦がれてしまう。これがこの舞台のすごいところだ。
忘れられない演劇体験になる。真夏の強烈な日差しの中を歩いてアトリエに向かう価値はある。想像を超える出来栄えだった。客席の拍手も力強い。