実演鑑賞
満足度★★★★★
書きかけては中断する事いく度かで延び延びとなったが、その都度書き始めの文言、というか視野が変わっている。実際この芝居はシンプルではなく、時間を経て繋がって来るものもあるんだろう。
曰くありの設定の家族の物語が綴られる。その中心に立つ「本妻」(松岡洋子)は世間的には理不尽な境遇にあるが、彼女特有の感性が終盤でクリアに顕現して溜飲を下げる。この本筋の幹に、ここに絡む周辺の人物らの感性がまた光る。YouTube動画を上げて視聴数を稼いでる長男の打算の産物のように見えた「こだわり」に、共鳴を吐露した女性は、舞踏を踊る人物(今回登場の無かった明樹女史の振付か)。人に見てもらう事を目的としない踊りとは一体何であるか。場から立ち上るもの、人の生きた痕跡が凝縮するその場所で自分は踊りたい、と彼女は言う。自分の生の意味は月や樹木や自然の声を聞く事のためにある、と「あん」のお婆さんは言ったが、踊る事が即ち生の告白であり証明だと言うように踊る彼女の呼吸に、主人公の夫の愛人の娘である大学の後輩は共鳴し共振して行く。一度身投げを考えた主人公をたまたま助ける事となったホームレス女性が、「輪郭とは現実には存在しない」と弁舌を繰る。「それ」は人の想念の中にしか存在しない・・。
作者西山水木は現世界の表層を形作るものの裏側から、言葉を投げる。世界に亀裂が入る。世界が今「そのようにしかあり得ないもの」ではない事に気づかせる幾つもの言葉があった。書き溜めたかったが今は記憶に留まってはいない。しかし作者が周到に水面下から転覆せぬよう浮力を与えて断面を人の眼前に出現させようとした「世界の秘密」に、少なからず触れた気がした。それは希望を掴み取ろうとする一つの形。
多様なイメージを駆使した作劇。満を持してのスズナリ公演を寿ぎたい。
実演鑑賞
満足度★★★★
やはり場内に入って目を奪われたのはこのセット。とはいえ、本編でのセットの使い方は、始まる前から過剰に肥大していた期待感を上回るとまではいかなかったのだが、決して分かりやすい展開とは言えないこのお話のリンカクが、ラストに向かって段々定まってくるのは、なかなかスリリング。
実演鑑賞
満足度★★★★
スズナリお似合いの80年代懐かし小劇場の舞台である。
劇団の「下北沢姉妹」の表記のいまならシモキタだろう。主宰者は当時、青年座の一点美女の娘役であった西山水木、演出は懐かしの離風霊船(劇団名だぞ!リブレセンと読む。)の伊東由美子。舞台は当時はやった舞台なしの構成舞台スタイル。物語は唐十郎ばりの謎の母子、父子関係に日々の生計のつながるレストランの経営の師匠、弟子関係、今時はどこをとっても、畏れながらと、訴え出られそうな関係で、主人公の女性が生きていくドラマが演じられる。筋立てにはあまりこだわらず、女性ならではの視点からの印象スケッチもあり、当時はやった舞踏も取り入れられていて、いまのチェルフィッチュ風なシーンもある。あれこれ取り入れられ消化されているが、今の人たちはもうこの手は使わない。
西山も伊東もそろそろ70歳が見えてくる頃ではないか、人生でも舞台でも苦労したなぁ、という実感がしみじみと感じられる舞台である。つかとか鴻上とか如月とか、一世を風靡した人たちを支えた、時流に僅かに乗り損ね、生きそびれた人たちを優しく包むような舞台であった。1時間50分。
実演鑑賞
満足度★★★★★
皆さんセットにコメントしていますが、本当にこういうのもできるんだというセットでしたね。素晴らしかったです。内容はなかなか複雑な事情の登場人物でそれぞれの心情は推し量りきれませんが、皆さん表現されていたと思います。終演後優しい気持ちになれるそんなお芝居でした。良い時間を過ごせました。
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、お薦め。
当日パンフに作 西山水木さんが「不思議な客席に驚かれたことでしょう…」とあるが、自分も こんなザ・ズズナリは初めて。スタッフに たまたま空いていた席に案内されたが、まさかの正面ど真ん中。俯瞰するような感覚で観た。
梗概は それほど難しくはないが、そこに登場する人物の性格や情況、気持を推し量ることは容易でない。人物像の輪郭がハッキリしない、もっと言えば 自分がどうしたいのかといったことが自身で分かっていない。それが、色々な人と関わりあうことで自分の意思を持つ、そんな自覚していく様子が描かれている。
登場するのは一家族だと思うが、その人達の関係も歪というか不思議で、自分の狭い常識の中では考え難い 不可解なこと。そこに他人が関わることで分かってくる事実が、この物語の妙。そして、一見 不思議な舞台美術(客席配置含む)だが、物語を紡ぐ上では理に適っている。
(上演時間2時間 途中休憩なし)
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/16 (木) 14:00
こんなスズナリ初めて観た!
舞台奥から太い花道が伸びている。
三方に客席が作られ、花道の途中には四角い穴があいている。深さは不明。
気が付くと水が流れるような、雨のような音が聞こえてくる。
開演前からホームレス風に厚着をした女性が登場、舞台上の石を床に投げたりしている。
雨が降って来たのにはびっくりした。
実演鑑賞
満足度★★★★★
素晴らしかったです。舞台があのようなセットになっているとは…です。スズナリは何度も足を運んでいる劇場ですが、あそこまで舞台を作り変えた観劇は今回がはじめてです。最初の雨に濡れるシーンのためだけにあのセットをつくるのもすごいなーと思いました。