実演鑑賞
地域発のミュージカルは数々あれど、、これは中々のクオリティでは? キャストは小中学高校生中心でもなく十代~五十代あたりまで満遍なく丁度いい塩梅のミックス具合であるのと、歌が引き出すカリカチュアな演技と、素に近い喋り、熱の入った演技と場面に応じて良い塩梅に、噛み心地良い料理が出されるよう。
テキストはこの団体が持ち分としているらしい川崎市中原区ゆかりの「水」に関わる史実、二ヶ領用水、多摩川水害、編笠事件を取り上げ、特に県庁への直訴を敢行する編笠事件の場面は圧巻で、民衆蜂起に等しい挙行へと高まる民衆の鬱屈も、子供らの友情、大人の偏見、そして和解といった群像ドラマの各場面と共にしっかりと描かれている。
ドラムベースキーボードギターの生バンド演奏と歌、現代風の挿入がなんちゃって感を醸しつつも、押える所を押えて、観客を完全に味方にしているのが判る場内。私の前に座った夫婦とその隣には夫の父だろう人。恐らく孫の姿を愛でに来たのだろうが、ドラマが進むにつれて身体が揺れ、ざわついてる様子、舞台上の人物の声に思わず「そうだ」と答えて隣の息子夫婦に笑われ、涙を拭きながら恥じ入っていた。素直の感情を喚起する舞台に、少年少女が持つエネルギーは不可欠と思わせた。
ミュージカルという形式が持つ要素の大部分を具備していたと思うが、瞬間の快楽の後に観客の中に残るものは何か、という点で私の中では「皆のために」「体を張って」「筋を通す」勇気が押し出されたい所である。物語中の時代考証は結構な度合いで端折られており、最後は二人の男女の結婚という事実が包容する「無礼講」なエンディングとなった。それが悪いというのではないが何かもう一歩「事実の重み」を留めるフックが欲しい感じは残った。
楽曲のレベルは中々高い。