実演鑑賞
満足度★★★★
地味な題材だが、美しいせりふと、花のある役者を得て、いい舞台だった。波乃久里子が一本気な江戸っ子を、べらんめえ調(と言っても女性なので抑え気味だが)で小気味よく演じる。養子の繁俊(尾上菊之丞)に、芝居の本読みをしこむ「第五夜 雷鳴の夜」は絶品。床に就くところなどかわいげもある。第2幕「第一夜 三つ巴の日々」の親子喧嘩の波乃久里子もよかった。
勘当されたヤクザな三五郎(石橋直也)も、真面目な人ぞろいのなかで、ちょいと斜に構えた小ワルを粋に演じて印象が強い。彼のセリフは黙阿弥のような七五調やべらんめいを取り入れて、心地よい。尾上菊之丞は初めての芝居とは思えない存在感がある。新人の勢い、新鮮さとともに、芯のある安定したたたずまい。姿勢がいいのは日本舞踊の踊り手だからだろうが、声もいい。二人の女中役(村岡ミヨ、鴫原桂)も、わきで舞台を支えてよい感じだった。
今回「新編」ということで、前の上演台本に手を入れた。一番大きな変更は、関東大震災で母子妻がはぐれて、炎のなかを逃げ惑うシーンと、再会の場面を入れたところ。それぞれの必死の姿に迫力があり、メリハリがついて、動きのある芝居になった。幕開けも、震災後の糸と繁俊から始まる。(前の上演では、「人形の家」の稽古から、坪内逍遥の養子縁組話という流れだった)
バックの箏曲、太鼓・笛も生演奏でぜいたくな音響。雰囲気を盛り上げた。2時間30分(休憩10分、前半80分、後半60分)