満足度★★★
玉石混交ながらも刺激的
「ダンス」と銘打ちながらも一般的な意味でのダンス作品は1組だけで、癖のある先鋭的パフォーマンスのショーケース的イベントでした。完成度の差が激しく、全てが良かったとは言い難いのですが、様々なタイプの表現を一度に観ることが出来る良い機会でした。
康本雅子『絶交』
男女の関係をコミカルかつちょっとエロティックに描いたデュオ作品。日常的な動作を反復しながら増幅する振付が主体で、康本さんの立ち姿の美しさと動きのキレの良さが印象に残りました。途中でダンサーが停止して、スタッフが衣装替えや掃除をする時間があったり、パフォーマンスが続く中で撤収作業が始まるのが面白かったです。
Line京急『トゥシャイシャイボーイ』
チェルフィッチュの山懸さんとミュージシャンの大谷さん、台詞を話さない水着の女性によるパフォーマンスで、主体の不一致やドキュメンタリー的映像、リルタイム映像による表情のアップ、韻を踏んだラップ的な台詞など現代的なイディオムを用いながらもユルユルな雰囲気でした。
ボクデス&家族『パンダンス』
小浜さんの実際の家族がパンダに扮して繰り広げられる脱力パフォーマンスでした。4月に品川の楽間で上演したものとほぼ同じでしたが、今回は小浜さんのご両親も出演していて、ほのぼのとしたシュールさが漂っていました。キュートなお子さんが美味しいところを全て持って行っていました。
三浦康嗣『合唱曲 スカイツリー』
ピアノと2台のギターの伴奏による混声合唱曲で、道路の環状線&放射線の「放射線」と放射能の「放射線」や、スカイツリーと子供の成長を重ね合わせた歌詞が良かったです。途中に単語を羅列するラップや日常会話的な芝居の部分もあり、三浦さんが音楽を担当した、ままごとの『わが星』を思わせる雰囲気がありました。
悪魔のしるし『ポ食』
オーストラリア人アーティストによる捕鯨反対のスピーチに続き、朱鷺の保護を訴えるスピーチ、そして同様の論理展開で芸術の保護を訴えるスピーチが続くシニカルな作品でした。鯨を食べる代わりにポテトチップスを食べれば良いとのことで、ポテトチップスの空き袋を繋ぎ合わせた巨大なオブジェが人を飲み込むのがユーモラスでした。
core of bells『プレシャスハイム3丁目』
ハードコアチューン『ゲス番長のテーマ』の演奏を前後のMCも含めて何度も繰り返し、繰り返す度にヴォーカルが倒れ、楽器の音が出なくなり、照明も暗くなって行き、他の作品の出演者たちが「聞こえない」「帰れ」、「つまんねー」等と野次を飛ばす展開がハチャメチャで面白かったです。舞台芸術における再現性について、笑いながら考えさせられる刺激的なパフォーマンスでした。
大谷能生×吉田アミ『Duo Improvisation』
通常の奏法をほとんど使わない大谷さんのサックスと、超音波やノイズのような吉田さんのヴォイスによる微細な音響の即興演奏でした。物音一つ立てられないような緊張感が気持ち良かったです。一部では何かのテキストを読んでいるようでしたが、音の響きに解体されていて内容は待ったく分かりませんでした。
地点『his master's voice』
大日本帝国憲法や玉音放送など、天皇にまつわるテキストを5人の俳優がステージ後方でほとんど動かずに地点ならではの独特の台詞回しで語る作品で、音楽的にも聞こえる声の存在感が強烈でした。唯一の小道具であるスイカに関連して台詞の合間にスイカの種を飛ばす音が断続的に挿入され、不思議な効果を出していました。「his master's voice」という言葉を極端なビブラートをかけながら『君が代』のメロディーで歌うシーンが印象的でした。
遠藤一郎『三日月』
ダンボール箱を積み上げたオブジェの前でお面を付け藁を身に纏って舞うパフォーマンスでした。終盤に割られるくす玉から出て来る垂れ幕に書かれた「本気で行けば最強」という文や、小さく畳まれた布(紙?)に書かれた「REVOLUTION」という単語からポジティブさを感じました。ASKAの曲や、観客を巻き込むパフォーマンスが本気なのか笑いを狙っているのか曖昧で、空回り感がありました。
満足度★★★★
実にいろいろ
よくまあ、これだけジャンルを突き抜けて集まったこと。個々の作品もさることながら、この企画自体がうれしい。休憩込みで約2時間半、濃い時間を過ごすことができた。