実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/09/25 (月) 14:00
座席1階
文化座とは浅からぬ縁の三好十郎。未発表の戯曲があるとは驚きだった。これを「時空を越えて」今の文化座の若手が演じた。三好十郎ご本人が主人公の興味深い舞台だった。
戯曲の舞台は、まもなく太平洋戦争に突入するかという戦前のこと。知人宅に居候している三好十郎をとりまく群像劇でもある。おもしろいのは三好を慕って訪ねてくる劇作家希望の若者たちだ。自分の作品を批評して物になるかどうかをいってくれと言う若者に「この国では戯曲では食っていけない。全く報われない仕事だ」と説教する場面がある。三好本人はこう考えていたのだろう。さらに、当時の世相、政治状況などを背景に、「劇作家が世相や政治におべっかを使うような作品ではなく、本音を書かねば駄目だ」という趣旨の独白もある。戦争にほんろうされながらも上演し続けた文化座のDNAを映し出すような一幕だ。
なぜこの作品が今まで世に出なかったのかと不思議なくらいだが、今が新たな戦前のような世相、政治状況であるからまったく違和感を感じることなく舞台に没入できる。よくぞ今、この作品が初演された、と拍手を送りたい。三好十郎を演じた白幡大介はせりふをかむ場面もあったが尻上がりによくなり、熱演が光った。