猟師グラフス【京都公演中止】 公演情報 猟師グラフス【京都公演中止】」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    芥正彦演出、結城敬太(現・四代目結城一糸)氏主演の『カスパー』を観た時以来の一線越えて来たアングラ。江戸伝内氏は十代の頃から唐十郎に傾倒していたという。二十歳の頃には「残酷劇」アントナン・アルトーにガチガチに嵌まる。実験演劇ではなく、演劇とはそもそも実験だと考えているのだろう。

    演出はノルウェーのラーシュ・オイノ氏。彼の率いるグルソムヘテン劇団から3人の役者が参加。(一人、直前で降板。京都公演も中止など不穏)。俳優からサイコロジー(心情、感情、内面、意味、説明)を削ぎ落とし、フィジカル(身体、肉体、動き、記号化)だけを要求するスタイル。
    オイノ氏は「貧しい演劇」イェジー・グロトフスキの孫弟子にあたる。アルトーとグロトフスキが江戸伝内氏とオイノ氏の共通言語。
    内面を失い人形化された人間が、人間に操られる人形と共演する。生きている存在を人が演り、生きていない存在を人形が演る。
    夢幻能なのか?

    上手で見たこともない珍しい和楽器を独り演奏し続ける稲葉明徳(あきのり)氏。何処吹く風。
    サイコロを振る子供の人形の動きがリアル。サイコロも糸で操っている。
    ひびきみかさんはデフォルメした狂女の動き?
    水を汲む女、食卓を用意する男、卓に着く男二人。無限に繰り返される日常。
    多数の子供達(?)の人形、ゲームで遊んでいるような。
    クリノリンを着けた役者がスローモーションで動く。
    赤と黒のワイヤーで作られたカモシカの針金人形。
    鳩の人形がリアルで凄い出来。
    等身大のグラフスの人形が厳か。
    ノルウェー語に字幕が投影される。
    驚く程詰め掛けた観衆。一体何が目当てなのか?

    カフカはオーストリア=ハンガリー帝国(現チェコ)に生誕、今作はドイツの猟師グラフスの物語。未完成のまま、未発表に終わった原稿。
    簡単に言うとオチのない落語。
    リーヴァの町の市長に深夜、鳩からお告げが下る。
    「明日、猟師グラフスが港に到着するから出迎えろ」と。
    小舟から下ろされた棺が館に運ばれる。訪れた市長が棺の男と謁見。動く死体は語り出す。「1500年前、森でカモシカを追い掛けていて、崖から落ちて死んだ。三途の川を渡る時、船頭が舵を取り間違え渡り損ねた。それ以来、あの世にも行けず死んだままずっとこの海を彷徨い続けている。」
    ただそれだけの話を90分ガチガチに見せつける。
    此岸(しがん)から彼岸へ。そして彼岸から此岸へ。

    ネタバレBOX

    例えるなら坊主がお経を唱えているのをぼんやり眺めている感じ。何かを読み取ろうと思えば可能だが、深い眠りに就く客が多々。こんなものをぼんやり観ている自分に笑えてきて、妙な面白さに包まれる。全く興味のない人間を騙して観せてやりたくなった。子供の頃に観たかった。

    吉本隆明が書いた親鸞の本で「正定(しょうじょう)」について記されている。親鸞は「正定」という生と死の境目の地点を仮想した。その地点に立つことで、生者側から死の世界を眺めることしか出来なかった人間に、逆に死者側から生の世界を眺める新しい視点が備わった。

    「あの世とはどんな所でしたか?」
    「巨大な階段の上にいるようで落ち着かない。」

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