星をかすめる風 公演情報 星をかすめる風」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    再演。戦時中福岡で獄死した詩人・尹東柱の舞台は観ておかねば、と足を運んだ。彼を巡る逸話が多彩であった事を見ながら思い出す。話は九大医学部の人体実験にも及んで、背景にあった「戦争」が局部的な異形として徐に眼前に現れた。医学者の口から何の躊躇もなく実験を正当化する「他の多くの人間のため」との言葉が飛び出すが、マイケル・サンデルのトロッコの譬えそのものだ。
    彼の詩は、取り上げられ焼かれてしまうので、刑務所内で許された凧揚げの際、詩を書いた紙を付けて糸を切る。獄外から凧を上げる「少女」(なぜかそうだと分る)の存在が彼の心の慰めであり、彼の詩を読んでくれた人である事が確信されている。医学部が来て以来、衰弱して行く尹東柱。凧揚げを許した看守長。その彼は容赦なく囚人を殴る蹴る男として憎まれる。彼が殺された場面が冒頭であり、ミステリー構造を持つ芝居でもある。そして彼のその相矛盾した行動(尹に見せた優しさと囚人への暴力)の真相も明かされる。語り部となるのは殺人事件捜査の主導を要請された新任職員。彼の目で真相を探って行く。読み物としても面白い作品。

    人体実験の事は忘れていた。遠藤周作「海と毒薬」を読んだのに。。医学者の唱える「正義」に対し、「なぜその考えは否定されねばならないか」(あるいは許容されて良いのか)、戦争を経験した日本人である私らはこれに答えねばならない。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/09/13 (水) 14:00

    座席1階

    「温泉ドラゴン」のシライケイタの脚本・演出とのことで、期待を持って劇場へ。3年前に上演された作品の再演だが、当時はコロナ禍の厳しい時で、ほぼ満席のサザンシアターということで実質上の初演という感じであった。

    想像だが、原作に忠実に練り上げられた戯曲だと思う。朝鮮半島の著名な詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)の物語だ。舞台は福岡刑務所。戦時中、治安維持法違反で収監された尹らが、暴力的な看守を殺害した容疑をかけられ、後任の若い看守が調べに入るというのが舞台の出だしである。
    舞台を見る前は尹の物語かと思っていたが、これは収監された朝鮮半島出身の囚人たちも含めた群像劇だ。さらに言えば、刑務所の職員や医療関係者も含めた物語であり、塀の外と内のたこ揚げの場面など、日本の庶民と囚人たちの心の交流という素材も織り込まれている。尹の詩は暗幕に映され、その繊細な詩が彼らの思いを鮮烈に訴えかけている。脚本・演出の力であろう。
    二幕ものだが、休憩も含めて2時間20分ほど。あえて二幕としたのは、客席に高齢者が多いから? テンポのいい会話劇が続くだけに、一気にラストシーンまで走ってもよかったかもしれない。
    日本に留学をしていた尹は、これだけの理不尽な扱いを受けても相手への礼節を失わない。対する日本の看守は暴力的に描かれるが、殺人事件の犯人捜しを命じられた後任の看守は、あの暗い時代の中で真実を追求する姿勢を持っている。現実はもっと激烈な憎悪があふれる人間関係だったかもしれないが、そこは劇作家へのリスペクトなのだろう。リンチや虐殺もあったであろう刑務所内のストーリーだが安心して劇作に没頭できる。
    人間と人間が信じ合うことの大切さを通じて反戦という教訓が描かれ、青年劇場らしい仕上がり。でも別に、説教臭いわけではない。むしろ尹という詩人を取り巻く群像に、何だか希望のようなものを感じて劇場を後にすることができる。

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