実演鑑賞
満足度★★★★
ヒグチユウコさんの絵本の世界。舞台中に描かれた花やキノコや胞子は、グロテスクな深海の風景にも見える不思議。原生林の生い茂る樹海深く、美しく怖ろしい無意識の底。宙を飛ぶトビウオ、艶めかしい陰葉植物。この美的感覚はテレーサ・ルドヴィコの『ピノッキオ』とだぶり、やはりサントリーのウイスキー・ローヤルCM「ランボー編」を思い出す。こういう無意識内を旅する世界観は小川ちひろさんの人形美術、人形劇団ひとみ座とすこぶる相性がいい。美術の松生紘子さんによる絵本をめくると背景が飛び出してくるような工夫の効いたセット。
被り物の猫達を演ずる山田うんさん率いるダンスカンパニー「Co.山田うん」。バレエのような軽快で派手な振り付けが印象に残る。後ろ脚をクイッと宙空に蹴る。
主人公ニャンコ役は松本美里さん。往年の大山のぶ代風味で子供達を夢中にさせる。
子供部屋のぬいぐるみ達が夜中になって動き出すというのは『トイ・ストーリー』の世界観。驚くのはぼっちゃんの趣味。へびにたこ、そして謎の生物アノマロ。蝉の幼虫だと思っていたが、5億年前に生息したアノマロカリスのことだった。勿論、化石でしか存在しない。このマニアックな陣容がニャンコに忠告。ぼっちゃんの成長と共に薄れていくであろうぬいぐるみへの愛情。不安を掻き立てられたニャンコは本物の猫になる為にアノマロに跨がり、「ねこのヒゲ」を集める冒険の旅へ。
曲はQUEENや久石譲っぽかった。「こうしてこうしてこうなって〜」と、これまでの展開をダイジェストで説明するブリッジ曲が最高。その度に物凄いスピードで何度もコミカルに全登場人物が踊りまくる。この演出は見事。
何とも言えない不思議な後味。やたら脳裏に引っ掛かる世界観。大人の絵本。